蟷螂生




最終選別から1ヶ月
そう、まだ1ヶ月しか経っていない
それなのに無一郎はなんと柱になってしまった
刀を握って2ヶ月というのに才能とは恐ろしい

史上最年少、最短での柱らしくてその噂はまだ庚の私の下へも届く
だから私は無一郎のところへ来ていた


「手合わせしてほしいの!」

「君誰…僕が柱だって分かってるの?」


柱になると邸宅を与えられる
無一郎の邸宅には数名の隠の人が世話係として住んでいるのみでがらんとしていた
そこに乗り込んだためそれなりに騒動となり、無一郎が出て来ざるを得ない状況になったわけだ


「友達の菜花祈里だよ」

「覚えてない」

「ちなみに私達は同期だからね!」

「知らない」


無表情で突き放す無一郎と、負けじとぐいぐい詰め寄る私を交互に見ていた隠のみなさんはおろおろしている


「アンタマタ来タノ!?毎回毎回シツコイワネ!!!」

「げっ、銀子…!!」


バサバサと翼を羽ばたかせて降りてきたのは無一郎の鎹鴉の銀子
とても主人思いの雌鴉だが、ご覧の通り姑のような性格をしている


「ストーカーナノ!?馴レ馴レシイノヨ!!!」

「いやだって友達だし」

「キィィ!!馴レ馴レシイ!!!」

「ギャァ!突かないでよ!」


鴉と争う私を見て無一郎は首を傾げた


「銀子、その人知ってるの?」

「エエ勿論!無一郎ノ前ニ何度モ現レルシツコイ小娘ダワ!」

「じゃあ会ったことあるのは本当なんだ」

「アッ」


しまったと言うような銀子
記憶がない無一郎に私が知り合いだということを決定づけてしまったのだ

自分の失態にキッと私を睨みつけた銀子だか私はにっこりと笑うのみ
再び銀子が私を突こうとするも、それを阻止したのは私の鎹鴉の颯


「ヤメテヨ!祈里ハ友達ニ会イニ来タダケダヨ!」

「出タワネ!オチビ!!」


銀子の言う通り颯は他の鎹鴉より一回り小さい
颯が言うには自分は若鴉なのでまだ成長期なんだとか


「君の鎹鴉小さいね」


無一郎が手を伸ばせば颯は嬉しそうに無一郎の腕へ飛び乗る
それを見た銀子が声にならない悲鳴を上げているが怖いもの知らずの颯は気にしていない


「無一郎、僕ハ颯ダヨ!アノ子ハ祈里!会ウノハコレデ4回目」

「そうなんだ…」

「今日ハネ、祈里ガ無一郎ニ手合ワセシテホシクテココニ来タンダヨ」


無一郎にるんるんで説明してくれた颯
怒りの限界が来た銀子に突かれ二羽は飛んでいってしまった

残された私と無一郎、そして隠のみなさん
無一郎は少し考えてから隠の人へ「大丈夫だよ、作業に戻って」と告げる

おかげで2人になったのだけど、無一郎はいきなり刀を抜いた
その刀身は白色で薄く水色に光っている

日輪刀は別名色変わりの刀と呼ばれる
太陽に一番近く、一年中陽光が射す陽光山で採れた猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石という陽光を吸収した鉄から造られている特別な刀だ
この刀で鬼の頸を落とせば殺すことができる

私も刀を抜いて構えた
先生と同じ緑色のそれははっきりと色を宿している

自分から手合わせを頼んだのだが、向かい合ってみて理解できたのは無一郎との圧倒的な格差
最終選別の時でも格上だと思ったのにこの1ヶ月で段違いに強くなっている


「いつでもいいよ」


本来なら木刀ですべき立ち合い、でも無一郎は刀を抜いた
怪我を覚悟で来いということだろう

相手が無一郎でも変わらない、私は自分がすべきことをする
無一郎を守るために彼より強くなる
刀を持つ手に力を込めて地面を蹴り上げた




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数時間した頃、様子を見に来た隠の人は絶叫した
真剣で立ち合いをしているため私も無一郎も傷だらけだったためだ


「何してるんですか!!!!」

「何って…立ち合い」

「そうじゃないです!!普通木刀使うでしょう!!!」

「そうなの?」

「そうです!!!」


隠の人に怒られている無一郎はなんだかおばさんに怒られている時のようで少し微笑ましい
2人を見て微笑んでたら隠の人から私まで怒られた


「何笑ってるんです!あなたも治療です!!」

「あっ、はい、すみません」






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