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キメツ学園は小中高一貫のためかなり大きい敷地を保有している
初等部、中等部、高等部、それぞれ各学年3クラスずつあり、生徒数もそこそこに多い

正面門は全校生徒が通るのでかなりの生徒がそこを通過するのだけれど、毎朝高等部の体育教師の冨岡先生が見張っているので少し緊張してしまう

そんな正門をくぐって中等部の下駄箱こと個人ロッカーで室内スリッパに履き替えるんだけど、一緒に登校してきた有一郎と無一郎がロッカーを開けた途端に手紙が雪崩のように落ちてくる


「わ、今日もすごい量」

「はあ…毎朝勘弁してくれよな」


落ちた手紙を拾う2人は慣れているようだけど私からすればとんでもない光景だ
この手紙が全部2人に宛てたラブレターで、一貫校のため高等部や初等部からも人気があるわけである

毎朝手紙の差出人を確認しつつ教室へ向かう2人の様子を眺めている私は少し肩身が狭い
何でもできて人気のある2人と比べて私はごく普通の一般人だ
英語以外の科目はそこそこ得意だけれど特別何かが秀でているわけじゃない

毎日2人との差を思い知るのでしょんぼりしてしまう


「はあ…」


ため息を吐くと2人が同時にこちらを振り向いた


「どうしたの祈里」

「元気ないな」


昔から私に何かあると両親よりも心配してくれた2人は少し…いや、かなり過保護だ
絶対に登下校は一緒だし、どこかに出かける時は誰とどこに行くんだとしつこく聞いてくる
優しいし感謝してるけれどあまりにも過保護すぎるので時々窮屈に感じていた


「何でもないよ」


いつもはそうでもないのに何故か今日は2人をあしらってしまった
そのことに若干自己嫌悪に陥りつつも授業を受ける私の手元には1通の手紙
有一郎も無一郎も自分の手紙で手一杯だったから気づいてなかったんだろうけど、今日は珍しく私のロッカーにも手紙が入っていた


「(高等部の人かな)」


手紙に書かれた名前は中等部では聞いたことがない
先生に気づかれないように中身を確認すると、典型的なラブレターだった
どこかに呼び出すとかではないけれど思いが綴られておりなんだか気恥ずかしい

今までずっと2人と一緒だったから恋人とかとは無縁で、去年無一郎に恋をしてからも恋愛スキルが上がるなんてことはなかった
そんな中、ついに私もラブレターをもらってしまったのだ
初めてのことにドキドキしながらも一体どんな人が書いたんだろうかと想像して期待が膨らむ

私は無一郎のことが好きだ
無一郎も私のことを好いてくれているようだけどそれは幼馴染の延長線上の好きで、本当に恋愛感情なのかは分からない
現に好きだとかそういうことは言われたことはないし…


「(もし…もしこの人と付き合ったら…)」


手紙に綴られていることが本当ならきっと私を大切にしてくれるんだろう
こんな風に曖昧な関係にもやもやすることもないかもしれない

手紙を鞄にしまった私は無一郎がその様子を見ているなんて知らずに授業に意識を戻した




−−−−−−−−
−−−−




無一郎視点




朝から祈里の様子がおかしい
なんだか考えているようでぼーっとしているし、僕や兄さんとあまり目を合わせようとしない

時々祈里が僕らの過保護ぶりを窮屈に思っているのは知っていた
でも小さい頃に祈里が変質者に声をかけられてどこかに連れて行かれそうだった事件があったから、それ以来僕も兄さんもできるだけ傍にいるようにしているんだ

父さんが「祈里ちゃんは女の子だから2人で守ってあげるんだよ」って言っていたし、僕らもそれが当たり前だと思っている
祈里はもう忘れてしまっていたけれど、その時にずっと傍にいるからねって婚姻届を書いた


「(流石に忘れてたのはショックだったかな)」


何年も前のことだし仕方ないけど僕はその頃からずっと祈里が好きで、きっと兄さんも祈里のこと好きなはずだ
兄さんは僕のことを気にしてか祈里に恋心を伝えている様子はない
でも僕は遠慮なんてできるほど優しくないから結構大胆に祈里にアピールしているつもりだった
まあ伝わってないようだし、祈里は揶揄われていると思ってるようだからこの前婚姻届を見せて本気だよと念押しした

物心がついた時には僕と兄さんの間には祈里がいた
いつもにこにこしてて、兄さんと僕が喧嘩すると必ず仲裁に入る
しっかりしているようで年相応なところもあってなんだか目が離せない子だ

僕らも14歳になって男女差で体つきも変わってきて、ずっと3人で今までのまま…なんてことはないって分かってる
だから今後も祈里といられるように友達じゃない関係になりたいんだ


「(ま、本人は何も分かってないけど)」


鈍感というか、自信がないというか…一筋縄にいかない祈里にどうしたものかと思いつつ授業を受ける彼女を見ると手元の手紙を見ている
あの手紙は何だと思うも、祈里の頬が若干赤いことに胸がザワッとした

そういえば様子がおかしくなったのはロッカーの辺りからだった
僕らが手紙を拾っている間に祈里は自分のロッカーを開けて…

その手紙が何なのか理解した途端体の芯が冷えていく感覚がした

祈里は愛想がいい、それに優しいし頭もそこそこいい、加えて昔から運動神経がずば抜けている

菜花のおじさんはクレー射撃の有名な選手だったらしい
オリンピックにも出たことがあるレベルだそうだけど、今は現役を引退してコーチ業に勤しんでいる
多分そんなおじさん譲りの動体視力と、祈里本来のポテンシャルで運動神経が良いんだと思う
僕らも運動神経がいいと言われるけれど、祈里に比べれば全然だ

とまあ、話を戻すと、祈里はモテる
逆にモテない要素を挙げろと言われると難しい
本人はスレンダーな体型を気にしているようだけど、女の子は高校生くらいになるとまた体つきが変わるし気にする必要はないと思うなあ…前にこれを言ったら怒られたので言わないけど

モテる祈里、ロッカーの中に入っていただろう手紙、そしてあの表情


「(へぇ…)」


どこのどいつの仕業と彼女の交友関係を振り返るが中等部でそれらしき人はいない
というか僕が祈里の傍にいるって分かっているから行動しないだけかもしれない
逆に考えればあまり僕らのことを知らない高等部の人が差出人だろうとすぐに答えは出た

休憩時間に入ってトイレに行った祈里を見届けてから彼女の席に座って鞄を探れば先ほどの手紙を見つけた
差出人の名前を見てから手紙を学ランのポケットに回収して、高等部の炭治郎にスマホのメッセージアプリでその人物が高等部にいるか尋ねるとどうやら高等部の2年だということが判明した


「あれ、無一郎なんで私の席に?」

「ううん、何でも」


にっこりと微笑むと祈里は不思議そうに首を傾げる
祈里は何も知らなくていい、僕が誰かに君をとられたくなくて裏で暗躍していることも何も

放課後、兄さんと祈里に炭治郎のところに寄ってから帰ると伝えてから高等部に向かう
菫組だと聞いていたので教室を覗けばカナヲがいた
炭治郎と仲がいい彼女のことは信用している


「カナヲ」

「あれ、無一郎…なんでここに?」

「ちょっと教えてほしいんだけど、〇〇さんってどこにいる?」


そう問えばカナヲは廊下を指差した
そこには友人と談笑している男の人がいる


「あの人だよ」

「そっか、ありがとう」


スタスタとその男の人に近づけば僕に気がついたのか不思議そうに見下ろしてくる
僕の身長は160cm、これから伸びるんだろうけれど今現在見下されているのが気に入らない


「君が祈里にラブレターを送った人?」

「え」


どうやら周りの人には言っていなかったようで男の人の友達は驚いているようだ
当の本人は慌てたようにおろおろしている


「な、なんで君が知って…というか君は一体」

「祈里は僕のだから手を出さないでくれる?」


冷たい目でそう言えば男の人が怯んだのが分かった
高等部でも僕のことを知っている人は多いみたいで、「あれ時透ツインズの」とか「無一郎くんだ」とか聞こえてくる
多分前に出た将棋のテレビ番組の影響かも


「僕のって…祈里ちゃんは彼氏はいないんじゃ」

「ねえ」


自分でも驚くほどの低い声が出る
目の前の男の人を睨みつけ、はっきりと言ってやった


「気安く名前を呼ぶなよ」

「…あ…はい…」


圧倒されている男の人を放って帰路につけば途中の公園で有一郎と祈里が待ってた


「無一郎!」

「何で…?」

「さっき炭治郎くんに会ったんだけど無一郎が来てないって言ってたから、何かあったの?」


心配そうな祈里を見てるとさっきの男の人にイライラしていた感情が引いていく
きっと兄さんは僕が何をしに行ってたかお見通しなんだろう、知っててあえて祈里には何も言わないでいてくれたんだ…こういう時に双子でよかったと心底思う


「何でもないよ」


ここにくる途中のゴミ箱に祈里の鞄から回収したラブレターは捨てておいた
祈里は僕のなんだから誰にも手出しはさせないし、そもそも意味がない
だって結局祈里は僕と結婚するって決まってるんだから






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