アンケート3位記念




※当HP内アンケートで3位人気だった記念小説
※キメ学if



私の幼馴染はとても人気だ


「キャー!有一郎くん!」

「無一郎くん可愛いー!」


球技大会、男子はバスケと聞いてたけどかなり大盛り上がりしているこの試合は里芋組と銀杏組の決勝戦らしい
それぞれの組には無一郎と有一郎がいるので黄色い声援が飛び交っている


「すごい人気だね、時透くんたち」

「もはやアイドルだよね」


一卵性双生児であり見た目がそっくりな2人はただでさえ目を惹くというのに、幼少期から将棋の才能があったそうでプロ将棋士間近の期待の新星としてテレビに取り上げられてからは更に人気が増したのだ

しかも頭がかなり良く、高等部で学ぶような内容も教科書を読めば理解できるというとんでもない天才ぶり
さらにさらに実は運動神経もいいというステータス盛り盛りなどこの主人公だよっていう補正もある始末

そんな2人とたまたまご近所さんだったからという理由で幼馴染として育ってきたんだけれど、日に日に2人と住む世界が違いすぎるなと思い知り胃が痛んでいる


「あ、有一郎くんがシュート決めたよ」


両隣にいる禰󠄀豆子と真菰はクラスメイト兼友達で、1年の頃から仲がいい
2人とも可愛くて人気者なので一緒にいるだけで鼻が高いというのに、性格までいいんだから人として尊敬している

有一郎が決めたシュートに体育館は大盛り上がりで凄まじい熱気だ
クラスメイトとハイタッチしている有一郎をぼんやりと眺めていると、その水色の瞳がこちらを向く
目が合ったなと認識した時には有一郎が照れくさそうに小さく手を振ったところだったので私も手を振り返した
女子生徒の視線がこちらに向くけれど幼馴染なんだしこれくらい許して欲しい


「有一郎くん相変わらずツンデレだね」

「でも祈里のことを見つけるの早かったよねー」


直後、試合が再開したと思ったら今度は無一郎がシュートを決めた
あまりの速さにぽかんとしているみんなを他所に無一郎はこちらに向かってにこにこしながら大きく手を振るので私も顔を引き攣らせながら手を振りかえした

そう、私はこの双子からかなり贔屓にされている
自惚れだとか自意識過剰とかではなく、正真正銘誰が見ても分かるほどのものなので流石にこれは自覚した


「無一郎くんってオープンだよね、祈里のこと大好きーって伝わってくるよ」

「そうだね、周りの視線が痛い…」


有一郎はツンデレなのでそこまで大胆なことはしてこないけれど、無一郎は前面に押し出してくるから注目を引いてしまうのだ
人気の双子の幼馴染というだけでやっかまれるのに、こうも分かりやすく好意を向けられればそれなりに妬みを買うこともあるわけで、その度に面倒な後始末をさせられているわけである

盛大にため息を吐いた私に禰󠄀豆子と真菰が眉を下げて笑った




−−−−−−−−
−−−−




「ねえ祈里、僕と兄さんどっちが凄かった?」


教室に帰ってきた私たちは購買で買ってきたプリンを食べている
球技大会は4限目までで、5限目は普通に授業があるので制服に着替えたんだけど、急いで来たのか無一郎は学ランを開けたままで中のシャツが見えてしまっていた


「ちゃんと前閉めなよ」

「祈里がやって」


あざと可愛い顔でそう頼まれてしまいプリンを置いてから無一郎の学ランのボタンを止めてやると、無一郎はにこにこしながら私を見つめてくる
身長は私より少し高いほどなのでほぼ真正面から見つめられて居心地が悪い


「はい、できたよ」

「…で、どっち?」


無一郎をスルーしてプリンを食べる
禰󠄀豆子と真菰は私たちの様子を交互に見て口元がにやにやしていた


「ねえ祈里ってば、聞いてるの?」

「もー、しつこいなあ」

「あ、それ美味しそう、ちょうだい」

「…はぁ」


マイペースな無一郎に察しろという方が難しいかと諦めて彼の口元にスプーンで掬ったプリンを運べば嬉しそうに食べた
こんな距離感なので勘違いされているけれど、決して恋人ではない、ただの幼馴染だ


「(人の気も知らないで…)」


私は無一郎が好きだ
以前、中学に入りたての頃に電車で遭遇した変質者に有一郎と共にフリーズしていたところを無一郎が守ってくれて、その時にときめいてしまったのである
それ以来もう見事に無一郎に恋をしてしまっているのでこういう距離感がバグったことをされると空しくなる


「無一郎くんは本当に祈里だ大好きだね」

「付き合っちゃえばいいのに」


禰󠄀豆子と真菰の言葉に食べていたプリンを吹き出しそうになった
なんてことを言うんだとギョッとしていると、無一郎が座っている私の顔を覗き込んだ
その顔は意地悪な笑みを浮かべていて、揶揄うつもり満載なのが伝わってくる


「だってさ、どうする?」


ほら、やっぱり揶揄ってきた
昔からこういうことは往々にしてあったので今更動じることはないけれど、傷つくんだからね!と内心叫ぶ

私を揶揄う無一郎の頭にチョップが落とされた


「痛い!」

「祈里に迷惑かけるなっていつも言ってるだろう」


そこにいたのは有一郎
結局球技大会は銀杏組が勝ったので有一郎のクラスが優勝、里芋組は準優勝という結果に終わっている


「有一郎お疲れ様、あとおめでとう」

「おー、ありがとう」


有一郎の登場に頬を膨らませる無一郎が彼を恨めしげに見やった


「痛いよ兄さん」

「迷惑かけてるお前が悪い」


あざとい無一郎に一切絆されずに冷たく言い放った有一郎
2人は一卵性双生児だけど性格は異なっている

兄の有一郎は感情よりも正論を優先して話せるタイプで、冷たい言い方をするように思われがちだけど優しさもちゃんと持ち合わせている
何でもそつなくこなすので器用だけど、意外とびっくりすると固まってしまうことがあったりするので予想外のことには弱い

弟の無一郎はぼんやりしているせいか有一郎より穏やかに見られているけれど、危険を前にすると考えるよりもすぐに手が出る方だ
わりと愛想がいいため勘違いされているけれど好き嫌いははっきりしているしかなり図太い

初見ではどっちがどっちか見極めるのが難しくても、こんなにもはっきりと性格が違うのですぐに見分けがつくのがこの双子の特徴だ


「はい祈里、これ頼まれてたやつな」

「えっ、わざわざまとめてくれたの?ありがとー!」


有一郎から受け取ったのは苦手な英語の文法をまとめてくれた紙
どの科目もわりと得意な方だけど、慣れ親しんだ言葉じゃないから英語だけはどうしても苦手意識がある
この前有一郎に相談したんだけど、どうやらかなり丁寧にまとめてくれたらしい
とても分かりやすくて感動してしまう


「え…え?どうして兄さんに相談するのに僕には相談してくれないの?」

「だってあの時無一郎いなかったし」


禰󠄀豆子のお兄さんの炭治郎くんのところに行っていた無一郎は知らなくても仕方ないよと告げるとみるみる内に機嫌が悪くなっていく
そんな様子に有一郎が面倒そうなため息を吐いた


「あのな、祈里はお前のじゃないんだからあんまり束縛するなよ」

「え、何言ってるの?祈里は僕のだけど」

「「え」」


あまりにも当然のように言う無一郎に私と有一郎は同時に声を出す
すると無一郎は子供の文字が書かれた紙を取り出した
そこには歪な文字で”こんいんとどけ”と書かれており、しっかりと無一郎と私の署名がある

いつ書いたのかも覚えていないものに開いた口が塞がらない私の隣で有一郎が「お前…生徒手帳に挟んで持ち歩いてるのか?」と顔を引き攣らせた


「僕と祈里は婚約者なんだから祈里は僕のだし、僕は祈里のだよね」


にっこにっこといい笑顔で告げた無一郎にファンであろう女の子の悲鳴が聞こえた
ああ、これはすぐに学校中に広まってしまうかもしれない
小中高一貫のこの学校ではどこまでの人に知られてしまうのか想像しただけで頭がいたい





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