愚者へ贈るセレナーデ

  メリークリスマス




ふと視線を感じてそちらを向けば、シノアが私を見上げていた

その後辺りに落ちている死体を、血の海に目を向ける


「まさかずっと戦ってるんですか?」

「逃げ切って見つかって逃げ切っての繰り返しかな、かれこれ十数時間戦いっぱなしだよ」


シノアの問いかけにそう答えれば、彼女は少し目を細めた

呆れたように、若干軽蔑したように


「走るよ、離脱する」


深夜の掛け声に頷き、一斉に駆け出した私たち

けれどシノアはその場から動かない


「何故ついてこない?」

「何故ついていく必要があるんです?襲われてるのは私ですか?あなたがたですか?」

「俺たちだ」

「じゃあむしろあなたがたについていったら私、死ぬ可能性があるじゃないですか」


シノアが言うことも正しい

グレンはそんな彼女に一歩近づく


「お前の姉は手配されてる」

「いつものことです」

「真昼を呼び出すためにお前は捕まって拷問」

「しても姉が出てこないことは帝ノ鬼のみなさんが一番よく知っています」


確かに今まで真昼はそう思われるよう振る舞ってきた

家蔵だろうが見捨てるように思わせてきた


「拷問されることにも慣れてますしねぇ…だから私はここに残って帝ノ鬼に保護されようと思います、柊ですしそう酷い扱いにはならないでしょう」


シノアのいう通り彼女はそうするのが一番生存率が高いだろう

八歳で達観しており、非常に賢いのは彼女も柊である故か


「それよりあなた方のゴールはどこなんですか?見ただけでもう疲労困憊です、逃げ続けても結末は見えてます
何のために皆さんはそんなに必死に、世界中を敵に回してまで…」


突如グレンのスマホが鳴る


「お、ついに電話きたか?」

「いや、メールだ」

「なんて?」


真昼からのメールを見たグレンは悔しそうに告げた


「置いていっていいと」


真昼はまたシノアを見捨てた

守ろうとしているだけかもしれないけれど方法が下手くそすぎる

シノアはもう慣れてしまったのか顔色を変えない


「あんまり姉に関わると破滅しますよ」

「いやお前の姉は…」


すると再びグレンのスマホが鳴る

今度は電話のようで彼は通話を受けながら駆け出した


「行くぞ!」


ぐずぐずしている時間はない

シノアを置いて駆け出すみんな

私も彼女の頭をひと撫でしてから駆け出した

すると、典人がシノアを振り返る


「あ!シノアちゃん、さっきの質問なんだけど!」

「…へ?」

「世界を救うためだよ、クリスマスに世界を救ったらすげぇかっこいいだろ!」


そう言った典人につられて振り向けば、シノアが不思議そうな顔をしてこちらを見ていた

私が真昼とまだ仲良かった頃の彼女によく似ている

きっとシノアも大きくなったら真昼のように美人になる

成長し、恋をして、いろんなことを経験して…強くなる

そんな彼女の未来を守るのは私たちの役目だ





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