愚者へ贈るセレナーデ

  独りぼっちの姫




グレンが試されるために呼ばれたことは理解できた

でも何で私は呼ばれた?暮人は確かめたいことがあると言っていたが…


「それにしたって随分と饒舌だな、一体何に慌ててそんなにアピールしてる?」

「真昼につながる可能性がある人間が今目の前に三人いる、ならきっと真昼にこの話が伝わるだろう?」


なるほど、暮人は真昼に対してこの会話をしている

グレン、シノアはともかくなんで私も真昼に繋がる?

彼女にとって私は切り捨てても痛くない存在のはずだ


「メールで返せよ、俺は真昼の連絡先すら知らない」

「はは、でも彼女は俺の言葉は聞かないだろ?」

「俺が言ったら聞くとでも?」

「少なくとも俺よりは説得できる可能性があるんじゃないか?」


暮人がグレンに真昼のアドレスを送ったのか、グレンのスマホが鳴った


「命令だ、会って説得しろ」

「嫌だと言ったら?」

「俺は命令だと言った」


それを聞いてグレンが刀をしまいながら暮人に語りかける


「暮人一つ聞かせろ、お前と真昼どっちが強かった?」

「真昼だ、彼女は天才だった
そして他人の痛みが分からない天才は組織を率いるべきじゃない」

「じゃあお前は痛みがわかるとでも?」

「彼女と比べればね、だからお前の気持ちは痛いほどわかるよグレン
地べたで這いつくばる気持ちはわかる、辛いよな」

「吐かせ」


グレンが真昼にメールを送信する、その表情は不満げだ


「じゃあ始めようか、彼女にメールしろ」

「言っておくが、真昼と俺の関係に期待しても」

「いいからメールしろ」


有無を言わせない暮人に諦めたグレンが指を動かす


「送信した、満足か?」

「接触があったらすぐに報告しろ、そして真昼には敵を間違えるなと伝えろ、柊はお前らの敵じゃない」

「敵じゃないなら裏切らないだろ」

「それに気づかせるのはお前の役目だグレン
俺の下でお前があの壊れたはた迷惑な恋愛中毒者を制御しろ」


そしてこの拷問部屋に不釣り合いな音楽が鳴り響く

グレンのスマホが鳴っていた、そのことに嫌な予感がする

先ほど真昼にメールを送ってからこのタイミングでの電話ということは十中八九相手は真昼だろう


「出ろ」


暮人の指示に舌打ちをしたグレンが通話ボタンを押した


「…こっちのセリフだ…勝手に殺すな、それになぜ俺の携帯の番号を知っている?」


やっぱり真昼なんだろう

グレンの表情が強張ったので息を呑む


「…横にいる…いいや、おすすめできないな…」


暮人に目を向けたグレンは携帯をシノアに差し出す


「妹に代われと言ってる」

「スピーカーフォンで」


グレンが手元の携帯を操作するとスピーカーフォンとなったようで真昼の声が聞こえる


『シノア大丈夫?』

「その大丈夫はどのへんについての大丈夫でしょう?」

『んー、なんとなくな感じの…で、どうなの?』


少し不満げに口を尖らせたシノアの様子に彼女にとって真昼という存在が重要であることがわかった


「まあ姉様の予想していたであろう通り大丈夫でしたけど…でもシノアちゃんたった八歳にして絶対絶命貞操の危機はありました」

『へぇー暮人は意外とロリコンだった?』

「もぉ、全然心配してないじゃないですかぁ…メール見ましたよ、どうぞお好きにって書いてありました」

『あはは、書いたね、傷ついた?』

「いいえ、他にやりようがなかったのもわかりますし、拷問もされませんでした」


シノアは確かにあの時メールを見て動揺していた

たった一人の姉に見捨てられたのだ、傷つかないはずがない


『でしょうね、暮人は効率の悪い、結果が出ないことはしないから、だから弱いんだけど
ま、無事でよかった…ところでこれスピーカーフォン?』

「はい」

『誰が聞いてる?』

「グレンさん、暮人兄さん、夜空姉さん、あと知らない金髪女という構成です」


グレンを連れてきた葵とシノアは面識がないらしい

しかし真昼は違うようだ


『三宮葵か、じゃあお父様はまだ出てきてない?』

「父上は君の失踪自体を知らない」


横から口を挟んだ暮人に真昼が少し笑ったような音が聞こえた





prev / next

[ back to top ]


- ナノ -