愚者へ贈るセレナーデ

  疑いの眼差し




暮人に呼ばれたのは拷問部屋

あまりここは好きじゃないので気が滅入る


「あ、夜空姉さん」


可愛らしい声が聞こえたと思えば、拷問椅子に縛られているシノアがそこにいる

血の匂い、そして爪が剥がされボロボロのシノア


「…これはどういうこと?」


眉間に皺を寄せてシノアの背後に目を向ければ暮人がこちらを見ている


「どうもこうも彼女を使ってグレンを見定める」

「そのためにシノアをこんな姿にしたの?」

「はは、お前はシノアに甘いな
これはメイクだ、傷つけられていない」


それを聞いてホッとした

シノアはまだ八歳だ、いくら柊の人間とは言えこんなこと許されていいはずがない


「夜空姉さんお久しぶりです、綺麗になりましたね」

「シノアも相変わらず可愛いね」

「あは」


にこにこと微笑む彼女から離れ暮人に近づく


「どうして私をここに?」

「少し気になることがあっただけだ」

「まさか私を疑ってるの?」

「いや、そうじゃない」


暮人はそれ以上説明するつもりはないようで、どこかに電話をかけている

私のことを疑っているならあっさりメイクだとバラしたりはしないだろう

ということは本当に別件で呼ばれただけかもしれない

その後十数分経過した頃、拷問部屋の扉が開いた

入ってきたのはグレン


「まーた新しい拷問官ですか?私なんにも悪いことしてないのでそろそろ勘弁してほしいんですがー」


シノアを見たグレンの表情が一瞬歪んだ

それを暮人は見逃さない


「それはどういう表情かな、一瀬グレン」

「ガキをいたぶるのは嫌いなんだよ」

「俺だってそうだよ」

「なら何だこれは」


グレンの声がいつもより低い

彼も私同様にこのやり方は嫌いなんだと思う

するとグレンから鋭い視線を向けられた

おそらく私がこのことを知っていたのかと非難している目だろうけどこの場では肯定することも否定することもできない


「柊の人間ならどうってことないだろ?現に彼女は笑ってる」

「お前のやり方は嫌いだ」

「お前に好かれる必要はない」

「だろうな」


グレンと暮人の腹の探り合いが始まる

二人とも口喧嘩が強そうなので聞いてる方が疲れてしまう


「シノアは拷問しても口を割らないだろう、そういうふうに柊は訓練する
だから拷問は意味がない、彼女に何をしたところで無駄だ、死ぬまで口を割らない」


私も昔にそういう訓練を受けたなとぼんやり思い出す

まだ柊に来たばかりの頃だったっけな


「だが口を割らなくても一度失ったらもう取り戻せないものもあるだろう?違うか?グレン
彼女はまだ八歳だ、恋もしていない少女だ、だがここで大切なものを失う…それをどう思う?
子供が拷問されるのが嫌いなら守りたいんじゃないか?」


ひどいやり方だ

柊らしい逃げようのない極悪非道なやり方

でもシノアは演技をしているだけで、本当は暮人も何もするつもりはない

だから私も表情一つ変えずこの光景を見守り続けた


「クズが」

「お前の評価を俺は気にしない、それともまさかこの世界の理不尽さや汚さについて俺に講釈を垂れるつもりか?」


グレンは何も答えない

ただ暮人を睨み続けている


「じゃあ続けるぞ、百夜教が接触してきた…裏切り者は真昼だそうだ、事実か?」


遂に百夜教は柊にも接触したようだ

真昼が裏切り者だとバレたことに内心焦りを覚える


「その無言は肯定か?」

「…わからない」

「どの部分が?」

「真昼が裏切り者かは知らない」


グレンはどう答えるのが正解か考えながら発言している

一言間違えれば殺されることはわかっているんだろう


「お前は裏切り者か?」

「いいや、裏切るだけの力が一瀬にはない、それに裏切ったところでお前らは痛くも痒くもない」

「そうだ、お前が裏切ったところで殺せばいい話だ
よし、その言葉は信じよう、だが真昼の裏切りについてお前は知っていた」

「いいや」


そう簡単に暮人は逃しはしない

まだまだ尋問は続く


「彼女はお前が好きだったろう?お前には話したんじゃないのか?」

「聞いてない」

「だがシノアは真昼がお前に相談したと言っていたぞ?」

「嘘をつくな」


もしシノアが拷問に屈していればグレンは殺される

もしくは百夜教が、真昼とグレンが接触していることを暮人へ報告していても殺される

だが暮人は薄く笑った


「まあ、そう簡単には引っかからないか」


でも不思議なのは百夜教が何を考えて接触してきたのか予想もつかない

真昼に裏切られたからと言って彼らが柊に情報提供してくるなんて何か裏がありそうだ





prev / next

[ back to top ]


- ナノ -