愚者へ贈るセレナーデ

  心臓がうるさい




にこにこと笑みを絶やさない真昼を警戒しながら深夜がグレンと私に囁く


「協力して真昼を捕まえよう、あのまま放っておいたら彼女は破滅する、わかってるだろう?」

「なあ、深夜…お前そんなに真昼のことが好きなのか?」

「さあねぇ、どうなのかな?僕はそのためだけに育てられた人形だから…君は?」


深夜の投げかけた質問にグレンが何て答えるのかが気になって彼に目を向けると、彼の青い瞳と視線がかち合った

一瞬で逸らされたのに時間の流れがゆっくりに感じて変な気分になる

そんな私を見ていた真昼の口角が緩やかに上がったのには気がつかない


「とっくに忘れた女だ」

「あは、とてもそんなふうには見えなかったけど」


先ほどのグレンと真昼の抱擁を思い出してチクリと胸が痛む


「だがまあ、あいつの持ってる刀には興味がある
キメラの実験にもあいつが手に入れている情報にも…だから真昼、お前を止める」

「できないって知ってるくせに、今はあまりに力に差がありす…」

「ガタガタうるっせぇええええ!!!!」


駆け出したグレン

深夜の術が真昼を拘束しようとするけど、真昼はそれを簡単に跳ね返した


「うふふ、今のが夜空の術だったら多少は手こずったかもね」

「ならお望み通りそうしてあげる」


真昼を拘束するよう術を展開すれば彼女の体を拘束する鎖が現れ真昼が拘束された

手加減なしの本気の呪術のため真昼は驚いたような表情をしている


「すごい呪術ね、さすが暮人兄さんの婚約者…でも残念、今の私にはちょっとぬるいかな」


が、鎖を断ち切った真昼の不意をついたグレンが彼女の腕にあるキメラの一部を斬り取った


「ああ、そっちが欲しかったの?でもそれを柊には」

「安心しろ、渡さない」

「そう、ならいいけど…まあどちらも裏切ってる私としては今となってはどっちでもいいし」


二大巨大組織を相手に立ち回る彼女は異常だ

それをできてしまう力を手にしていることも


「おい真昼」

「なに?」

「いい気になってられるのも今だけだ、すぐにお前に追いつくぞ」

「うん、待ってるね」


綺麗に微笑んだ真昼が立ち去る

それを止めることもできない私たちはなんと無力なのか

先ほどグレンが切断したキメラの一部を手に取れば、グレンはこちらへ刀を構える


「それをよこせ、さもないと…」

「おいおい、その満身創痍っぷりで夜空とやり合おうっての?」

「いいハンデだろう?」

「だってさ、なめられてるよ」


茶化すような深夜の物言いに呆れてグレンへそれを投げて渡す

別に私は柊にこれを渡す気は毛頭ない

一瀬家の研究にどうぞ役立ててもらって結構だ

ちょうどその時、足音が聞こえたので振り返ると花依さん、雪見さん、美十、典人がこちらへ向かって駆けて来ていた

気絶させられていただけで命に別状はなさそうで安心する

グレンはキメラの残骸を手にして何かを考え込んでいるのか様子がおかしい


「グレン」


声をかければハッとした彼が私を見てから駆け寄ってきた美十と典人に目を向ける


「また…また貴方が助けてくれたのですか?」

「くそ、お前には助けられてばっかりだな」

「今度何かがあったら、その時は私が命を懸けて貴方を守りましょう」


表情が晴れないグレンを心配した深夜がグレンの肩に手を乗せた


「なあグレン、お前は真昼にはなれないよ、だが僕はそれを弱さだとは思わない」

「そうだよ、強さってそういうことじゃないでしょう」


私たちは境遇は違えどこうやってチームを組んでいる仲間だ

グレンが一人で真昼と戦う必要はない

一人で敵わないならみんなで戦えばいい


「というか、真昼と同じ選択をするなら僕らが彼女を救う必要はないと思うんだけど…君はそれをどう思う?グレン」


深夜にの問いかけにうんざりするような声色でグレンは「ちょっと疲れたよ」と言葉を漏らしてゆっくりと地面に倒れる


「グレン様!!」


花依さんと雪見さんの悲鳴が上がる

グレンの体を支えていた深夜がキメラの欠片を回収するように目で合図してきたのでみんなに気づかれないよう欠片に術をかけた

グレンはこれを欲しがっていた、きっと柊も百夜教も出し抜くために


「(暮人が怒るかもなぁ)」


今まで彼を裏切ったことはない

これからもできればそうしたい

たださっきからグレンの味方でいたい気持ちの方が大きいのだ


「(私、どうしたんだろう…)」


ああ、なんだか胸が苦しい






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