リーダーの素質
全員が揃ったところでグレンが真剣な顔をする
おそらく今から作戦会議が始まるんだろう
「じゃあ任務について話す…と言っても話すことは少ない、情報も少ないからな
任務地は上野動物園、そこで百夜教が何かを隠している、俺たちはその調査をする
すでに帝ノ鬼の十七部隊が派遣されて全滅しているということだ…つまり中には敵がいる
まあ、柊の兵が揃いも揃って無能で毒物が撒かれているのに気づかず何度も潜入して毒が回って全員死んだ…なんてことなら敵がいない可能性もあるが」
その状況を想像して私と深夜が笑う
「それすごい面白いね」
「さすがにそりゃないでしょ、毒があるかどうかも調査されてるはずだよ」
「だろうな、なら敵がいる、必死に秘密を隠したい奴がいる、つまり潜入しがいがあるってことだ」
それを手に入れれば柊にとってかなり有利に働くだろう
問題はそれを柊に共有する気がグレンにあるのか否か
すると美十が不思議そうな表情をした
「あなたさっきから随分と偉そうに話しているけれど、こういった任務の指揮を執ったことが」
「口を挟まないでくれますか?グレン様は幼少の頃よりあまたの死地を」
「黙れよ時雨、吠える奴ほど弱いって言葉知らないのか?」
グレンに制され、雪見さんが押し黙った
どうやら現場に出た経験はあるらしい
「そもそも会議が必要なほどの情報はないんだ、だが少し試したいことがある」
「試したいこと?」
「任務に出る前にそれぞれの実力を計る、とりあえずお前ら俺の刀に反応してみろ、反応速度を見る」
瞬間、完全に油断している美十と典人に刀を突きつけたグレン
あまりにも唐突なことで二人は反応出来ていない
「い、いきなり攻撃してくるだなんて、あなたはどれだけ卑怯…」
「馬鹿かお前、戦場で誰が攻撃する前に挨拶してくる?
だが、お前らの反応速度は大体わかった、そこを基準にして命令を出す」
典人が何か言おうとしていることに気がついたグレンは全て理解しているように口を開いた
「それ以上はいいぞ五士、お前が身体能力よりも幻術や呪術が得意なのは選抜術式試験の時に見てわかってる」
「お前俺の幻術を…」
「悪くない出来だ、潜入の時は役に立つだろう
それと美十は潜入前から身体能力加速の呪術を使え、任務中ずっとだ、生身のままじゃ使い物にならない、すぐに殺されるぞ」
的確な指示をしていくグレンをにこにこと見ていた私と深夜
その視線に気がついた彼は面倒そうにこちらを見た
「僕は?僕は試さないの?」
「いつでもいいよー」
両掌を見せてひらひらと振って見せるけどグレンは興味なさそうにしている
「お前らが死んだら柊様は偉そうなわりにこの程度でしたかって笑うだけだ」
「「ええ、ざんねーん」」
どうやらグレンは私たちを試すつもりはないらしい
非常に残念だけど、襲撃時に既に判断されたと思うことにした
「夜空」
「お、試す?」
「いや、お前は呪術と剣術どっちがメインだ」
私が呪術で柊に買われた話はきっと調べ済みなんだろう
そして襲撃後から帯刀始めたことでどちらがメインかグレンは疑問に思っている
つまり私の剣術は呪術レベルまで引き上がっているということだ
「どっちも得意だよ、暮人直伝の剣術と柊お墨付きの呪術…どっちも組み合わせて戦える」
それを聞いたグレンは少々驚いたような表情をしたが、深夜が「夜空かっこいいー」と茶化してきたので話は中断した
正直呪術なら真昼にも勝てるかもしれない
基本的な身体能力も剣術も彼女の方が断然上だけれど私にだって秀でた部分はある
皮肉にも私の生き方を決める原因となった呪術が切り札なんて笑えない
少し待っていると葵が教室に入ってきた
「学校からヘリが出ますので時間は気にせずに、それと帝ノ鬼特務兵専用の戦闘服をお持ちしました
あらゆる呪詛に対するある程度の耐性と呪術具が仕込まれています、活用してください」
「隠密行動でヘリだと?お前らは馬鹿か?車で行く
むしろ七人分の私服を用意しろ、戦闘服には現地で着替える」
グレンの指示は的を得ている
彼は現場に出る経験があるのかもしれない
「確かに、すぐに用意させましょう、では出発は?」
「校門前に車を用意しろ、二台だ」
「運転手と高速バスの迷彩を施したものを用意させましょう
渋滞についても操作します、任務開始時刻の何分前に現地に着きたいですか?」
「十五分前、一キロ離れたところに止めろ」
「わかりました、そのように手配します、五分後には外にいてください」
葵は承諾し教室を出る
スムーズな指示を眺めていた私たちにグレンは目を向けた
「それでいいか?」
全員が頷いたことを確認したグレンは「じゃあ俺たちの戦争を始めようか」と言った
私たちが今日を生き残れるかそれともここで終わるかは彼次第だろう
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