愚者へ贈るセレナーデ

  嘘だって言って




現れた天使に目を疑う

柊は一体何をしようとしている?


「醜い人間どもよ…滅亡しろ」


天使がそう告げるとラッパが音を鳴らす

すると空から光が射した

何が起こる?理解が追いつかない


「拘束!!」


葵が叫ぶと天使の体を何本もの鎖が貫く


「ああ…アアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


苦しそうに叫ぶ天使

その姿に君月くんが叫んだ


「てめえら俺の妹になにしてんだああああ!!!!!」


誰か嘘だと言って欲しい

あの天使すら人体実験だと言うのか

しかし叫んだ君月くんの体をグレンが貫いた


「ガキが動くな、天使をコントロールするための血が足りてない」

「な…なにしてんだお前あああああ!!!!」


グレンへ優一郎くんと吸血鬼が向かう

だがその刀は寸前で止められた


「なんだ、なぜ止める…殺せよ甘ちゃんが」

「…う…嘘だろ…こんなの嘘だと言ってくれグレン…お前は仲間を裏切ったりしないよな!?何か理由があるんだろ!?何とか言ってくれよグレン!!俺たちは…俺たちは家族じゃなかったのかよ!!!」


優一郎くんの叫びにグレンが反応を示した

彼の頬を涙が伝う

その姿を見て駆け出した


「グレン…!!!」


グレンが遠い

でも必死に駆けた

吸血鬼を殺しがむしゃらに

だがグレンは優一郎くんを斬った


「は…はは…よし全員生け贄だ」


彼がそう告げた直後、天使の背から禍々しいなにかが顕現した


「き、来ます!第五ラッパから人間を罰する滅びの悪魔が現れます!!」

「制御は?」

「生け贄が足りてませんが現状出来てます、人類はついに終わりのセラフの管理に成功しました!!」

「よし、悪魔アバドンに残りを喰わせて安定させろ」


暮人の指示で空に液体のようなものが生まれる

それは吸血鬼も人も飲み込んでいく

酷い光景だ、世界が終わってからこんな酷い光景を見たことがない

すると今度は火柱が上がった

もう今度はなんなんだと思うもきっと仲間の誰もその答えを持っていない


「なんだ…あれは」

「未知の終わりのセラフです!火柱の下で終わりのセラフが発動しようとしています!!」

「どういうことだ?」

「わかりません!我々とは別の何者かが実験をしているか…もしくは単純発動です!!放置すれば…」

「また世界が終わる…か?」


暮人は何か知っている様子だ

じゃあこれも柊の策ということか?


「神の罰ね、だがもしも敵が神だとしても人類は前へと進む!葵!あの終わりのセラフを潰せ!!」

「はっ!全軍火柱へ攻撃!滅びの悪魔を火柱へ!!」


天使の攻撃が火柱へ向かう

その凄まじい攻撃を避け飛び出してきたのは優一郎くんだった

その背には黒い羽のようなものが生えている


「終わりだ全部…禁忌を犯した人間どもはみな…みなみな…塩の柱となれ」


優一郎くんが手を伸ばすと巨大な岩壁のようなものが出現する

それに向かって再度天使の攻撃が放たれた


「夜空!今のうちにグレンの下へ!!」

「っ、うん!」


訳がわからない

でもグレンはそこにいる

少し駆ければ手が届く

もう見捨てない、一人にしない


「グレン、動かないで」


私の刀が背後からグレンの首に触れる

真正面には深夜もいる

彼の銃もグレンを捉えていた

世界崩壊後もこうやってグレンに刀を突きつけた

あの時は真昼に彼が乗っ取られているんじゃないかと疑ってだったが、今は彼を裏切り者として突きつけている


「…説明してよグレン」


深夜の問いかけにグレンは答えない


「説明をしろ!!!」


グレンが仲間を殺すのを見た

暮人と共謀して何かをしようとしていることも

そしてそれが家族を見殺しにしても行ったことも

夢であって欲しい、嘘と言って欲しい

でもこれは事実だ、この目で見た


「そう怒るなよ…深夜、夜空
これは俺たちがガキの頃みた夢だろう?」

「なんのことだ?」

「軍を変えるんだ、養子のお前らや分家の俺でものしあがっていける世界にする」

「グレン…なんの話をしてるの…部下が死んだんだよ?あなたの裏切りで仲間がたくさん…!!」


背後にいる私の視界にグレンの刀が入った

ああ、そうか…こいつか


「グレン、あなた…鬼に心を乗っ取られてるのね?」


グレンの目がこちらを向いて不敵に笑う

瞬間、私の刀が弾かれた

同じ黒鬼装備、でも心を鬼に渡したグレンにとって私は赤子同然らしい


「グレ…!」


最後に見た彼の目は赤く輝いていて…

まるで吸血鬼のように、鬼のように赤いそれにぞっとした私は気絶させられた

信じていた婚約者も好きな人もみんないなくなる

物語が進んでいるのに私は何も知らない村人A

思えば八年前、世界が終わった時からずっとこうだ

自分の知らないところで全てが進み、私はただ翻弄されているだけのような感覚

結局私たちは主人公にはなれない

弱くて情けなくて仲間のために必死になる甘ちゃんのままだ





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