愚者へ贈るセレナーデ

  面接を始めよう




吸血鬼と新宿で交戦した数日後

一号執務室に呼び出されていた私は呆れた目を暮人へ向けた


「毎度よくやるわね」


自分もこうやって何度試されてきただろうか

暮人は軍内部に吸血鬼と繋がっている人間がいると踏んでいた

それをあぶり出すために今は月鬼ノ組で新宿に出向いていた者を一人一人尋問しているわけだ

ちょうど先ほどまで葵の妹の三葉ちゃんに話を聞いていたところで、妹を前にしても顔色一つ崩さない葵は従者としては満点だろう


「そう言うな、脅威は取り除かねばならない」

「それはそうだけど…と言っても目星はついてるんでしょう?」

「ああ」


暮人が会話を辞めたので結界を展開する

入ってきたのは一人の隊士

確かグレンのところにいた子だったと思う、遠目にしか見たことがないけれど


「なんだ?」


入ってきた扉が勝手に閉まったことに驚いているようだ

そんな彼の前には一匹の吸血鬼

柊が捉えたそいつは隊士を視界に捉えた


「…おまえを…殺す」

「はあ?なんでここに吸血鬼が」

「死ね人間!!」


飢えで理性が吹き飛んだ吸血鬼が飛びかかる

しかし隊士の子は平静と刀を抜いた


「ざっけんな、死ぬのはてめぇだよ吸血鬼…ったく、なんだよ一体」


綺麗に吸血鬼を斬った様子を眺めていた私たち

暮人が合図をしたので私たちの気配を消す結界を解いた


「裏切り者を試す踏み絵だよ」


突然聞こえた声に隊士の子が振り向く

暮人、私、深夜、葵がその場にいた


「お前が吸血鬼を殺せるかどうか試した、結果お前は非武装の吸血鬼を平然と殺したという事実が一つ増えたな
だがそれだけだ、では面接を始めようか」

「誰だよてめぇ」

「柊暮人、日本帝鬼軍の中将だ
さて、ではお前が誰で信用に足る人物なのかについての面接試験を始めよう
まずお前の純粋な剣の技術を見せてもらう、鬼呪を発動するな」


刀を抜いた暮人に隊士の子が怪訝そうに顔を顰めた

十六歳くらいだろうか、とても可愛らしいその子はどことなくグレンを彷彿とさせる


「いいけど…でも本気でやっていいのか?
柊のお偉いさんが負けて恥かいても知らねぇぞ」

「ははは、お前はそんなに強いのか…それは楽しみだな」


暮人にこうも反抗する子は珍しい

にこにこして様子を見守っていると隊士の子も刀を抜いた


「俺は別に楽しくないけどね、ま…んじゃ来いよ」

「優ちゃーん、あんまり暮人兄さんの言うこと信じない方がいいよ」

「ん?」


優ちゃん、そう深夜が呼んだ

なんだ、暮人は私にだけ彼の名前を教えなかったらしい

相変わらず意地悪するなぁと思うも、暮人の持つ雷鳴鬼が稲妻を帯びていく


「もう遅いよ、憑依しろ雷鳴鬼」

「なっ…!てめ、鬼呪は使わないって…!!!」


驚く隊士の子に暮人の刀が突きつけられた


「…なるほど、お前の実力は分かったよ」

「卑怯だぞ」

「ああそうだな…で、それが?
戦場で卑怯だと叫びながら死ぬか?
だがその態度はいい、鬼呪を使うなという主家の言うことを疑いなく聞くその姿勢には好感が持てる…跳ねっ返りのグレンの部下とは思えな」


刀を納めた暮人が背を向けた瞬間に振りかぶったその子

私は抜刀してその刀を受け止めた

確かに見た目より強い斬撃だが所詮まだ子供、私の方が強い

刀を押し返せば隊士の子が着地して不敵に笑う


「お前今仲間が守ってくんなきゃ死んでたぞ」


この状況で暮人相手にこの態度

ああ、本当にグレンそっくりじゃないか


「あ…それとも背中から襲うなんて卑怯だーって言うか?」

「ははは…負けん気が強いな
前言を撤回しよう、確かに君はグレンの部下だ」


乾いた声で笑う暮人

これは全然笑っていない時の笑い方なのでこっちは笑えない

劫火桜を鞘にしまえば隊士の子が首を傾げた


「んぁ?なんだよもう終わりか?」

「ああ、君のことはもう分かった…深夜」


深夜の名を呼んだ暮人に耳を疑った

彼が今から深夜に何をさせるつもりか理解して少し焦る


「ちょ、暮人」

「夜空は黙ってろ」

「えー…やだよ僕、暮人兄さんと違って弱い者いじめ嫌いなんだけど」


相変わらず笑ってはいるが深夜の目は冷たい


「黙れよ、弟は兄の言うことを聞くもんだ」

「血ぃ繋がってないじゃない、僕柊家の養子だし」

「いいからやれ、殺すぞ?」

「うえー、めんどくさいなぁ」


今から深夜はこの隊士の子に攻撃する必要がある

暮人がそう望めば私たちは従わざるを得ないのだ

もう何度もこんな経験をしているのに私たちは断り方すら今だ分からない


「ふざけんな、誰が弱いって?」


隊士の子が苛立ったように深夜に告げる

どうやら弱い者いじめという言葉が癇に障ったらしい


「そりゃ君だよ」

「試そうか?」

「ああー…まあそういう命令なんでね、やろうかー」


白虎丸を出した深夜

暮人はどうやらまた深夜のことも試験していたらしい

なるほど、私にだけ彼の名を教えてなかったことからして私の試験かと思えば深夜だったかとため息を吐く


「白虎丸撃ってー、ズドン」


飛び出した白虎が隊士へ向かう

なんとか反応し斬ったが、その隙に深夜の拳銃の先についた刃が首元にあてがわれた


「はい僕の勝ち」

「…くっ」


悔しそうな顔をする隊士の子に内心同情する

可哀想だけどこれが今の実力差だ、それに先ほどの白虎丸に対する反応からして鬼呪装備の基礎の基礎しか習っていないらしい

全く、グレンらしいなと苦笑いした




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