33-普通





2018年4月




水色のランドセルを背負っている透は小学二年生になっていた
世那は登下校時のことを心配したが、悟が上手く諫めたことで透はごく普通の子供と同じように登校していた

今日も慣れた足取りで通学路を歩いているとこちらへ走ってくる足音が聞こえる

「おーい!透ー!!」

自分を見つけ走ってきた友人に小さく手を振った
小学校に入って初めて同年代の子供との関わりが出来た透は案外上手く馴染んでおり友人にも恵まれている
それを聞いた悟は「きっと世那に似たんだろうね」と自分の小学生の頃を思い出し感慨に耽っていたそうだ

「おはよ瑞稀、相変わらず朝から元気だね」

「お前は相変わらずクールだよな」

友人の瑞稀と他愛ない会話をしながら向かうのは東京では名門と言われる私立学校
五条悟の息子というだけで他者から狙われる立場にある透はセキュリティのしっかりしたこの学校に入学させられた
かつて悟も通っていたことから理事長も二つ返事で入学を承諾し、在学中にも万が一の事態が起こらぬよう警備体制に力を入れるとのことだ

「ここだけの話、一年の時にめちゃくちゃ高そうな車で登校してきた時はお前のこと総理大臣の息子かと思ったんだぜ」

「ははっ、ないない(まあ呪術界で言えば御三家も官僚に似たようなもんだけど)」

非術師には呪霊の存在は明かさない
つまりそれに付随する情報も明かしてはならない
そのため透は本当の事を言わず誤魔化す

高級車の件は任務に向かう悟がついでに透を正門まで送ったことが原因である
運転していたのは悟に脅された潔高だが

幸い五条家本邸が息苦しいからという理由で悟は都内にある高級タワーマンションに住んでいる
そのため世那や透も必然的にそちらが自宅になるわけで、瑞稀を自宅に招いた時も金持ちの家とは思われるも呪術関係の由緒正しい家だとはバレていなかった

「ってか昨日あったマジ怖見た?」

「マジであった怖い話ってやつ?」

「そー!もう怖すぎて洒落になんねーよ」

一度母親である世那と共に見たことがあった透は「(あの捏造ありまくりの番組か)」と思うも、本物の呪霊を見慣れた彼にとっては冷めて見えるのも仕方のないことだった

呪霊が見えないとはどのように世界が見えているのだろう
少し羨ましくも思ったことはあるが、自分が尊敬する両親と同じ光景を見れるのなら別に悪くもない

正門をくぐるなり周囲の女子から好奇の目を向けられる透

「透くんだ」

「カッコイイ」

「王子様みたい」

白髪に赤い瞳という目を惹く外見ながら、頭脳明晰、運動神経抜群というまさに絵に書いたような優等生
そんな透がモテないはずがなかった

「透って欠点とかあんの?」

「急に何?」

「いや、ちょっと理不尽さを感じた」

瑞稀の言っている意味が分からない透は首を傾げるが、そんな姿を見て瑞稀は深くため息をつく

「そういえばCクラスの高海さんっているじゃん?」

「えーっと…あの黒髪の子?」

「そうそう!学園のマドンナって呼ばれてる高海さん!!
噂によるとお前のこと好きみたいだぜ」

瑞稀のからかいに透は「ふーん」と興味なさげに相槌を打って校舎を目指し歩き続ける

透の初恋は幼い頃からよく面倒を見てくれた硝子
好きなタイプはかっこいい大人の女性
同級生は眼中にないらしい

「興味無い」

「そう言ってフるの何人目だよ、今どき小学生でも付き合うとかザラだって」

「そーゆー瑞稀は?この前告白したんでしょ?」

「…聞くな、友よ」

遠い目をしたその様子になんだそれとフッと笑ってしまう

「瑞稀の良さを分かんない女なんて見る目無さすぎ、付き合わなくて良かったじゃん」

クールで目立つことを避けたがる透、そんな彼はゆくゆくは呪術高専に入学し呪術師となる
いつかは瑞稀とも離れる定め、もし透の交友関係を逆手に取るようなことがあれば呪術界が揺らぎかねないためだ
だからこそ透は今この瞬間の一般的な日常を気に入っていた

「透…お前まさか俺の事好きなのか!?」

「僕の名言台無しだよ」

「でもお前美人だし、女ならありだったかも」

「げ、気持ち悪いこと言わないでくれる?」

瑞稀が肩を組んでくるので嫌がりつつも解かない透の様子を見て、周囲の女子は「羨ましい!」と瑞稀に嫉妬した





ーーーーーーー
ーーー




その日の帰り、瑞稀と別れてすぐの角で透はどこからか感じた視線に溜め息を吐いた

「(呪詛師か…?)」

命を狙われ慣れている彼からしてみれば特段大したことでは無いが、放っておけば瑞稀に危害が加わりかねない
目を向けると電柱の上からこちらを見つめる黒づくめの男の姿

「うわ、ホントにいるし」

面倒だなーと思いつつため息をついた透がトンっと地面を蹴り一瞬で呪詛師の目の前までジャンプした
突然のことに驚く呪詛師だが、何か言葉を出す前に透の術式が発動して男が引き寄せられる

「(う、動けない…?!)」

「懸賞金目当て?」

ピタリと動きを止められている男に質問する透の瞳は先程まで瑞稀に向けられていたものとは異なり冷酷さが滲み出ていた

「子供だからって油断してたんでしょ、お生憎様僕が誰か分かってる?
そこら辺の雑魚と一緒にしないでよね」

透がぐっと拳を握り勢いよく振りかぶった
術式を纏ったパンチが炸裂し男は地面へと叩きつけられのめり込んでいる
透も自分の無限を解いて地面に降り立ち、少しやりすぎたかなと思いつつ持っていたスマホで悟に連絡を入れた

「もしもしお父さん?呪詛師捕まえたんだけど」

《マジ?ほんとよく湧くね》

「(虫みたいな言い方)」

《位置情報送って、すぐ行く》

慣れた手つきでスマホを操作し悟へ位置情報を送信した次の瞬間、ふわりと風が揺れ悟が姿を現した
今日は休みだったのか私服にいつものサングラスという格好だ

「おー、こりゃまた痛そ」

顔面がひどい有様の呪詛師を見て感心している悟

「この前お母さんに殴る時のコツを教えてもらったんだ
それに術式を組み合わせてみた」

「なるほどね(我が子ながら優秀だ)」

透の頭を撫でた悟は呪詛師の首根っこを掴んで「高専に届けてくるからちょっと待ってて」と告げ姿を消した
残された透は大人しくその場で待っていると、数分後再び悟が姿を現す

「お待たせー」

「お父さん今日休みなの?」

「そうだよ、GWは無休だから今の内に休んどけってことだろうね」

相変わらず多忙でスケジュールがパツパツな父親
昨年に引き続き今年も一年生の担任を受け持っているのだがどこにそんな余裕があるのか不思議でならない
同じことは傑にも言えるのだが、二人は口を揃え「最強だから問題ない」と言うだけだった

「ね、せっかくだし甘いものでも食べてから帰ろうよ」

透と目線を合わすようにしゃがんだ悟はにっこりと彼に微笑む
その言葉に透は目を輝かせてブンブンと首を縦に振った

「お母さんには内緒だからね」

「うん!」

嬉しそうな透の表情にフッと口角を上げた悟は瓜二つの息子と手を繋ぎ街へと向かった










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