00-神託





人は何度も過ちを繰り返す
自らの幸福の為に他者を蔑む

手に余る力はやがて戦いを生み
戦いの果てには何も残らない

自分達の都合で自然は破壊され海は汚される

しかし彼らは皆平等に純粋無垢に生まれる
その後の環境で人格が形成されるのだ

数十年しか生きられない儚い命

「哀れだねぇ」

そんな人の世を神は退屈そうに眺める

「神よ、また人間観察ですか?」

「ああ、最近お気に入りの子がいるんだ」

視線の先には桃色の髪を揺らすまだ幼い少女
今は師である男と共に修行中のようだがどこの世界でもこの師弟は相変わらず仲が良い

「人間観察も程々にして下さいね、ましてや干渉するなんて絶対やめてくださいね」

「勿論だよ」

この世は一つだけではない
無数の世界が並列し存在している
人はそれを知らないだけで常に神はそれを覗き込み、退屈しのぎに人の行いを見物しているのだ

その一つの世界を生きている彼女はどんな物語を紡ぐのか

別の世界での彼女を見てきた神はその少女を見つめ愉快そうに口角を上げた

ある世界では幼少期の一族の争いで
ある世界では師によって
ある世界では寿命で
ある世界では愛する人の手によって

そうやって何度も命を落としてきた彼女がこの世界では何を見せてくれるのだろうか

退屈しのぎに観察する存在へ少しの期待と好奇心を寄せた神はそっと今回の世界に小さな贈り物をする
神は人間界に干渉してはならない、その掟を破ってまで

「頑張って生きてね、宝生世那」





選択肢の数だけ存在する並行世界

その中でもほんの一つ
確率にも出来ないほどの僅かな可能性

これは宝生世那が歩んだ平和な世界の出来事だ








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