63-審判
「あっはっはっは!凄いね、面白い!」
人は愚かで浅はかでそしてとても興味深い
何故そんなにも他者のために強くあろうとするのか理解できぬ天界の者からすれば無駄なことでしかないのだ
しかしそんな姿を面白いと思ったのも事実
宝生世那という何度も同じ運命を廻る少女
そんな少女が幸せを享受し生きながらえたとするならばどんな未来を見せてくれるのだろうか
少しの好奇心で神は贈り物をした
決してこの世界に存在しない命の縛りを変えてしまう代物
この世界の人間たちの中では呪物と呼ばれるそれを敢えて落とした
別にそれをどう扱うかは人間次第だ
「神よ!どれほど重大なことをしでかしたか分かっておいでですか?!」
「ああ、勿論だよ」
「ならば何故笑っておられるのです!」
「想像以上に面白かったからさ」
贈り物をしたという特異点が生じたことにより本来の道筋とは大きく異なった世界
平和そのもので何とも都合の良いそこはぬるま湯のようだ
他の世界では戦争真っ只中というのに、何とも平和で穏やかなものへと変貌を遂げたそこで彼女は同じように死んでしまった
しかし、他のどの世界にも存在し得ない彼女の息子というイレギュラーな存在が自分の贈り物を使いその命の縛りを断ち切ったのだ
これを愉快を言わずして何と言うべきか
「自ら撒いた種だけど咲くとこんなにも嬉しいものなんだね」
「あなた様が干渉したことでこの世界は他の世界とは全く異なるものへとなってしまいました
審判が下れば、今後二度とこの世界に近しい世界は生まれないでしょう
いいですか神よ、あなたは自身の愉悦のために一人の人間の起こり得た可能性を消滅させてしまったのですよ」
「起こり得ないさ、彼女はどの世界でも必ず死を迎える
平和に生き延びるなんて微塵もあり得ない…何度も見て来た、人間は本当に愚かだよ」
神は己の罪を反省などしていない
何故なら神だからだ
その存在こそが万物の全てであり決定である
「それとも何かい?この私が判断を誤ったとでも?」
「…いいえ、貴方様のなさること全てが正しいのです」
「だよね」
神は満足そうに従者へ微笑んだ
そしてふと一つの世界を思い出す
戦いの最中、強制的に過去の姿へと戻され渋谷に放り出された彼女はどうしているのか
他の世界での結末は見て来たが、あの世界でも同じなのだろうか
それとも全く想像しないものを見せてくれるのだろうか
「さあ、抗ってくれ」
そして神を楽しませてくれ
この遊びは退屈しのぎには持ってこいだ
神は愉快そうに口角を上げた
全ては誰かの掌の上で起こっている
そんなことを知らずに懸命に生きる人間は本当に哀れで愛おしい
Fin.