ヒロアカsong


▼ 04



僕、緑谷出久には2人の幼馴染がいる

「おいデク!唄!置いてくぞ!」

いつも前だけ見て物怖じせずに進んでいくみんなの憧れ、かっちゃん

「2人とも待ってよー」

そして可愛くて優しくて僕の初恋の相手、唄ちゃん

小さい頃はよく3人で遊んだっけ
けれど、かっちゃんに個性が発現してから彼はどんどん悪い方に加速していった

「無個性が出しゃばってくんなよ!」

「や、やめてよかっちゃん!」

かっちゃんの攻撃対象は無個性の僕になっていた
理由は2つだ

無個性な僕が楯突くのが気に食わないのが1つ

「かっちゃんやめて!」

もう1つは唄ちゃんだ
羽を広げて僕の前に立ち、かっちゃんと向き合う唄ちゃん

「お前はまたそうやって」

かっちゃんは唄ちゃんを複雑そうに見ている
僕だけじゃない、唄ちゃんを好きなのはかっちゃんもだ

よりによって僕を庇う唄ちゃんに対してかっちゃんのプライドは傷ついたに違いない
幼い頃はまだ小さな溝だったけれど、それが中学3年になる頃にはいつの間にか大きなものへとなっていた

かっちゃんは素行は荒いものの、勤勉で個性も優秀な生徒
比べて僕は地味で目立たない無個性な生徒

どちらが唄ちゃんにお似合いかなんか一目瞭然だし、それを悟った小学生の時に唄ちゃんへの恋心はずっとしまっておこうと決めた

「唄!俺と勝負しろ!」

「また来たの?しつこい!」

毎日毎日唄ちゃんに突っかかるかっちゃん、そんな2人を見ていて分かったことがある

「今日は私の勝ちだね」

「んだと!」

本人は無自覚かもしれないけど、かっちゃんに認められたいという思いが唄ちゃんにはある
かっちゃんが突っかかるのを迷惑そうにしながらも、どこか楽しんでいるようにも見えるのだ

それに気がついてしまった時、僕の初恋は終わりを告げた







「出久!」

呼びかけられた声にハッとして振り返れば、笑顔で駆けてくる唄ちゃんの姿

「おはよう」

「おはよ!出久はもう願書出した?」

「うん、昨日出したよ」

唄ちゃんにはこの前のヘドロ事件の後にオールマイトから個性を受け継いだことは勿論内緒にしている
僕が無個性にもかかわらず雄英を受けると思っているはずだ

それでも唄ちゃんは馬鹿にしたりせずに心の底からの本心で応援してくれてる
それがたまらなく嬉しい

「ねえ、唄ちゃん」

「ん?」

「ずっと前から気になってたんだけど、唄ちゃんはどうして僕のことを気にかけてくれるの?」

昔からずっと僕のヒーローだった唄ちゃん
彼女が僕の言葉をきっかけにヒーローを志したと聞いた時は正直嬉しかった

「そんなの大切な幼馴染だからに決まってるでしょ、出久が困ってたらいつだって助けに行くよ」

唄ちゃんはいつだって真っ直ぐで、ちゃんと自分を持っている
本当にかっこいい

「舞羽さんだ、可愛いよな」

「なんで緑谷が隣にいんの?」

「知らねーのかよ、幼馴染らしいぜ」

並んでいる僕らを見てひそひそと話す男子生徒たち
唄ちゃんはその整った容姿と明るい性格のため、かなり人気があった

昔から唄ちゃんに近づく男の子をかっちゃんが威嚇してきたため誰とも付き合ったことがないだけでモテる
本人は自分のことになると鈍感なのでそれも関係してるのかもしれない

「唄ちゃん、いつもありがとう」

「え、何突然?」

「ううん、お礼が言いたくなっただけだよ」

いつも僕の傍で支えていてくれた幼馴染
唄ちゃんは少し不安げに瞳を揺らして僕を見た

「出久、何かあった?あの事件以降なんだか様子が変じゃない?」

「(ごめんね唄ちゃん、これだけは話せないんだ)

何もないよ」

いつかちゃんとキミを守れる時が来たら
その時は唄ちゃんに並べるだろうか

これは僕のヒーローであり、最高の幼馴染の女の子のお話だ









prev / next



- ナノ -