ヒロアカsong


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2人の激闘の末、ステージを修復する為小休憩を挟んでいるけれど、確かこの次は雫ちゃんの試合だったはず
それが終われば私の番なので控え室に向かう
何も考えず控え室の扉を開けるとそこには目を腫らした雫ちゃんがいた

「どうしたの!?」

「うえぇ…唄ちゃん…」

とりあえずハンカチを渡して涙を拭いてもらう、ああ、あとティッシュも渡さないと
鼻水ずびずび言ってるよ、可愛い顔がとんでもないことになってる、けど可愛い

「何かあったの?」

「あのね、焦凍くんが」

雫ちゃんは泣きながらもこれまでの轟くんとの経緯を話してくれた
要約すると、試合が終わった後で轟くんに「ありがとう」と言われて今まで張り詰めていたものやら何やらが決壊したらしい

「…え?」

ちょっと待って、惚気?

「お恥ずかしながら焦凍くんの家庭の問題に首を突っ込んでこなかったから、まさか感謝されるなんて思ってなくて…というか、なんで感謝されたのかも分からなくて…でも、とても嬉しくて…わけが分からないけど泣いてる!」

ごめん、全然理解出来なかった
いや、轟くんと雫ちゃんて許嫁なんだから2人とももっとお互いのこと踏み込んでいいと思うんだけどなぁ

「(それに見た感じ両思いだと思うけど)」

轟くんは無自覚かもしれないけど雫ちゃんを見る目は優しいし、何かしら雫ちゃんのことを気にしている場面が多い
何となく私の勘が恋だと告げている

「良かったね、雫ちゃん」

「っ、うん」

にっこりと微笑んだ彼女はやっぱり綺麗だ

「でも雫ちゃん、その目冷やさないと次の試合大変だよ」

「そうだった…!」

忘れてたのかとツッコミたくなるほど慌てて氷を作り出して近くにあった袋に入れて目に冷やしてる雫ちゃん
恋をしてるとこんなにも一途になるのかと少し羨ましくもある
私もいつかは誰かを好きになって、こういうように一喜一憂するんだろうか

「…ねえ、雫ちゃん」

「なに?」

「大丈夫?」

多分この事だけじゃない
そう思い雫ちゃんに尋ねると、彼女は困ったように笑う

「焦凍くんのことで動揺していたのが半分、もう半分はちょっと緊張しちゃって」

そう告げた雫ちゃんの手は震えていた
ヴィランから守ってくれた時に勇敢さを持ち合わせていることは知ったけど、こういう姿を見ると雫ちゃんも私と同じ高校生なんだって実感して身近に感じられる

「よし、私の取っておきのおまじないを教えてあげる!」

「おまじない?」

雫ちゃんの隣に座って、その手を握った
おでこをくっつけて目を閉じる

「雫ちゃんは絶対勝てる」

「え、唄ちゃん…?」

「雫ちゃんも目を閉じて、ほら復唱して」

「う、うん…私は絶対勝てる」

戸惑いながらも繰り返す雫ちゃん
これはお母さん直伝のおまじない、思い込みの力は人を強くする

「雫ちゃんは強い」

「私は強い」

「雫ちゃんは負けない」

「私は負けない」

そこまで告げてからゆっくりとおでこを離し、その綺麗な透き通る水色の瞳を見つめた

「あなたと出会ってから私はたくさんのことを学んだよ、それにたくさん助けられた
雫ちゃん、あなたは私のヒーローだよ!」

雫ちゃんはそれを聞いて少し驚く素振りを見せたあと、嬉しそうに微笑んだ

「ありがとう、唄ちゃん」

と、同時に控え室へ係の人が呼びに来た

「雫ちゃん」

トンっと彼女の背中を押して後押しすると、雫ちゃんはびっくりしたように振り返り私を見た

「Plus ultra!」

「っ、うん!」

やっぱり彼女には笑顔が似合うなと考えつつ、雫ちゃんが出ていったあとの控え室で次の試合を待つ

私の対戦相手は常闇くん
1体1じゃ最強とも言われている相手だ

「さて、何かしら考えないといけないわけだけど…どうする?」

遠くで歓声が聞こえる
どうやら雫ちゃんの試合が始まったらしい

その歓声をBGMに私はゆっくりと目を閉じた









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