ヒロアカsong


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翌日

セントラル病院で治療を終えた私は骨折箇所が全身にありながらも比較的軽傷だった
きっと自分の治癒の個性を使っていたのも関係しているとは思うけれど、松葉杖があれば歩けるくらいには動けている

まだ意識を取り戻していない出久、勝己、轟くん、雫ちゃん以外のメンバーが病室になだれ込んできた

「唄ちゃん!心配したんよ!!」

「馬鹿!1人で無茶して!!!」

みんなに怒られ、自分の無茶ぶりを痛感したけれど、それよりも救えなかった命が多すぎて涙がこぼれる

一連の流れを説明する私の話をみんなは黙って聞いてくれた

自分がミスをしたせいでギルティルージュを死なせてしまったこと
避難勧告をしながらも大勢の人を見殺しにしてしまったこと

悔やんでも悔やみきれない思いが言葉に、涙になって溢れてくる

「舞羽さんは出来ることをしましたわ!」

「そうだよ!お前がいなかったらもっと大勢の人が死んでたんだぜ!!」

避難勧告を優先し、より大勢の命を救ける
ヒーローとしては正しい行いだったかもしれない

けど、どうしても舞羽唄としては自分が許せない

「私は…っ…結局何も出来なかった!!!」

誰も救えない

結局私はあの頃と同じ、震えて救けを待つだけのちっぽけな存在だ









その後、轟くんと雫ちゃんが起きたという連絡が入った
これで目を覚まさないのは出久と勝己の2人のみ
私があの時回復を行ったはずの2人

松葉杖をついて2人に会いに行こうとするけれど、途中でオールマイトに見つかり車椅子に乗せられた
2人でやってきたのは出久の下

夥しい包帯やギプス
無理をしたのが見て取れる

「っ…出久」

あの時もっと早くに回復していれば

「舞羽少女…君のせいじゃない」

「でも…」

「緑谷少年はワン・フォー・オールを継ぐ者としてオール・フォー・ワンを止めようとした
それは私が彼に課してしまったことだ」

オールマイトから譲り受けた個性
それが出久をこんな風にしているんだろうか

「私…最初は…出久に個性が発現して…一緒にヒーローを目指せるようになって…嬉しかったんです」

まだその力が何なのかも知らなかった頃
出久とヒーロー科で学べることが嬉しかった

「それがとても強大な力だと知ってびっくりしたけれど、出久が継承者に選ばれたのは誇らしかった」

秘密の共有者となって昔の3人に戻れた気がした
出久と勝己が互いに歩み寄っていく姿に安堵した

「でも…本当に出久じゃなきゃダメだったんですか?」

目の前にいる出久はボロボロで…オール・フォー・ワンと戦うとはこういうことだと思い知らされた
ずっと前に継承者のノートを見た勝己が何か言い淀んでいたのはこのことを危惧していたからかもしれない

「私は…緑谷少年を選んだことを後悔していない…けれど君の気持ちは重々理解して」

「分かるわけがない!!」

オールマイトの言葉を遮るように叫んだ私に彼は黙り込んだ

「あなたに…分かるはず…ないじゃないですか…っ…」


-唄ちゃん-

-唄-

-いずくん、かっちゃん、ずっと一緒だよ!-


「私は…出久と勝己の幼馴染です…今までもこれからも……他の人にこの気持ちが分かるはずがない…っ!!!」

大切な人が傷ついていくのを見ていたくないのはそんなに悪いことだろうか
個性が譲渡されなければなんて…そんなことを想像してしまうのはだめなんだろうか

「本当に…すまない…」

その後、オールマイトは何も言わなかった
勝己の病室まで連れていってくれた彼はそっと出ていく

「勝己」

怪我人の中で1番重傷な彼の手を握ればその手は温かい

「ごめんね」

口から出た声はとても弱々しくて情けなかった





ーーーーーーー
ーーー




事件から2日後



松葉杖をついて院内を歩いていると、前から峰田くん、砂糖くん、瀬呂くん、透ちゃんがやって来た
みんなは入院するほどの怪我じゃなかったのか制服を着ている

「あ!また舞羽が無茶してる!!」

「砂糖!車椅子持ってきてくれ!!」

「おう!!」

見つかって早々怒られた私は今日も車椅子に乗せられた

「あの、リハビリしなきゃだしちょっとくらい歩いても…」

そう言えば全員がギロッとこちらを睨むので口を噤む
みんな怒ったら怖すぎるよなぁ…

「爆豪のところだろ?連れてってやっから大人しくしてろ」

峰田くんにそう言われて眉を下げ「ありがとう」と告げる
本当は出久のところにも行きたいけれど、先ほどお見舞いにきてくれたお茶子ちゃんたちがオールマイトが2人にしてほしいと言っていると教えてくれた

「(きっと継承者絡みのことだろう)」

合同訓練の時に出久は夢を見たと言っていた
その夢で歴代継承者に会ったとも

色々思うところはあるけれどワン・フォー・オールのことは口外しない約束なのでみんなに悟られないようにする

そして勝己の病室の扉を開けて中を見れば、上体を起こしているその姿が目に入った

「あーーーー!!!起きたぁ!!」

峰田くんがそう叫べば、いつものヴィラン顔の勝己がクワっとこちらを見て怒鳴る

「うるせぇ!どこだここ!!」

「よかったキレた、いつも通りの異常者だ!」

「屁みてェに確認すな!!」

相変わらずの様子にホッとして語りかける

「ここはセントラル病院、最先端最高峰の治療を受けられる病院だよ
私の怪我ももうほとんど治りかけてる」

「嘘つけ」
「嘘だからな」
「嘘だね」

みんなに全否定され黙った私を勝己が睨みつけるけれどサッと目を逸らした

「つーかマジ良かった!マジで1番やベェって聞いてて俺さァ!もぉさあ!!腹に穴開いたとかもぉぁー!!!」

「私看護師さんに伝えてくる!」

勝己に泣きつく峰田くん
そして病室を出て行こうとする透ちゃん
けれど、峰田くんを押し除け勝己は私たちを見た

「デクと轟と海色は…先生、先輩は…エンデヴァーは…事態はどうなった!?」

そのことに言いづらそうにするみんな
だから私は口を開いた

「轟くんも雫ちゃんも…みんな意識は取り戻したよ…ただ…出久だけは一向に起きる気配がないって」

それを聞いた勝己はベッドから下りて立ち上がった
そのことにギョッとしている内に病室を出ていってしまった

慌てて追いかける峰田くんと砂糖くん
透ちゃんは看護師さんを呼びに行き、瀬呂くんは私の車椅子を押している

「だー!動くな死ぬって!動かすなって言われてんだよ!!」

「うるっせいな!引っ張ると余計力んで死ぬぞコラ!!」

「どーゆう感情で喋ってんのソレ!?」

間の前でズンズン突き進んでいく勝己

「ちょっと勝己!怪我が開いちゃうから大人しく…ゲホッ!!」

「舞羽ェェエエ!!!」

吐血した私を見て悲鳴を上げる瀬呂くん
けれど勝己は止まらない

「あんにゃろ死んだら殺す…!」

そう告げた勝己も私と同じ気持ちだろう、出久が心配なんだ
それを思うとこれ以上止める気にはなれなかった








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