ヒロアカsong


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共同スペースにて練習中のバンド隊

「曲は決まった!ウチらはひたすら…殺る気で練習ぅう!!」

初心者の上鳴くんに色々説明し、丁寧に教える響香ちゃんはとても楽しそうで頬が緩む
私は一応バンド隊所属だけどボーカルってことなので歌詞を覚えるところからだ

「Hero tooいいよね、この曲好き」

「だよね、ウチも舞羽ならこれ好きだろうなって」

響香ちゃんが選んだ曲
そっか、私のことも考えてくれたんだ

「(優しいなあ…)」

思えば入学してからヤオモモと響香ちゃんといる時間が多かった気がする
雫ちゃんとは授業とかで一緒になるとは多いけど普段一緒にご飯を食べたりしてるのはこの2人だ

「(2人と一緒にバンドできるのは嬉しいかも)」

「唄てめェにやにやしてる暇あんなら歌詞覚えろやァ!!!」

「うわ、久々のそれ」

告白の一件以来あんまり怒られた記憶がないので懐かしさすら覚えてしまう
まあ勝己の言う通りなのでちゃんと集中することにした






それから1週間後
練習終わり、お風呂から上がったA組のみんなは共同スペースに集まる

「てめェ走ってんだよ!俺に続けや!!」

「いやお前が勝手にアレンジすっから混乱すんだよ!!」

言い合う勝己と上鳴くん
確かに勝己はアレンジ多いもんなーと苦笑いしつつキッチンへ向かう

「耳郎さんご指導も本職さながらですわ、素人の上鳴さんが1週間でコード進行までたどり着くだなんて」

「別にそんな…」

「あ、今日のお茶いい香りだね!」

そう言った私にヤオモモが顔を輝かせる

「わかりますの!?お母様から仕送りで頂いた幻の紅茶ゴールドティップスインペリアルですの!」

「チップス…?」

「ティップスですわ、皆さんも召し上がって下さいまし!」

ポテチかな?と思ったけれどヤオモモがいつもみたく嬉しそうなので微笑ましい
和みつつ響香ちゃんと今日の練習のことを確認していく
毎日練習終わりに2人で些細な修正などを入れていくことが日課になっていた

「ね、ここなんだけどどう思う?」

「うーん、多分このフレーズはハモるとくどいから同じ音域でいいかも」

「ふむふむ」

2人で歌う以上パート分けや音域なども綿密に組み立てる必要があるので毎日この話し合いは2時間は続いている
続々とみんなが自室に戻ってしまい、残ったのは私たち2人だけ

「あ、今日ももうこんな時間だ」

「毎日あっという間だねー」

ぐぐっと伸びをすると、響香ちゃんが少し考えた後にこちらを向いた

「ねえ、舞羽は自分の趣味がヒーロー活動に役立ってるじゃん」

「カラオケのこと?声量って意味では役に立ってるかもだけど…それだけだよ」

「それでも!比べてウチはただの趣味って言うか…ショボイって思われたくなくて張り切っちゃってさ…」

出し物決めの際に暗い顔をしていたのはそのためかと納得した
ずっと不安だったんだろう、自信がなかったんだろう

「響香ちゃんの気持ち分かるなあ…」

「え?でも」

「私ね、本当は人前で歌うとか苦手なんだ」

「!?」

ボイトレを初めてるのがバレて小学生の頃にイジられたことがあった
それは勝己が解決してくれたけど、あれ以来大勢の前では歌うのを避けている

「だからね、カラオケが趣味って言ってるのも自分を克服するためなんだ
私の弱い部分を変えるために敢えてそう言ってるの」

「じゃああの時ボーカルを断ろうとしたのって」

「うん、歌えませんって言うつもりだった」

響香ちゃんの瞳が揺れる
そりゃそうだろう、体育館となればかなりの生徒が見に来る

「でもね、A組みんなの前だと不思議と全然嫌じゃなくて…多分私はみんなから勇気をもらってるんだなあって
上手く言えないけど、きっとこの文化祭も私がヒーローになるために必要な過程なんだなって思ったんだ」

「舞羽…」

「響香ちゃんと歌いたいって言ったのもね、似てる気がしたの、この文化祭は絶対響香ちゃんに必要だと思ったから」

にこっと笑えば、響香ちゃんは涙目になった

「ウチ…両親は音楽の道に進んでて、小さい頃からずっと楽器を教えてもらってて…
それが無駄になっちゃうと思ったからヒーローになりたいってなかなか言えなかったんだ」

「…そっか」

「でもね、好きにやっていいって…自分の仕事で他人に何をもたらせるか…音楽もヒーローも同じだって
だからウチは雄英に来た、その雄英で自分の好きなことを一生懸命やりたい!」

響香ちゃんに頷く
私だってそうだ、芸能界に入って欲しかったお母さん、一緒にセラピストをして欲しかったお父さん
誘拐されたことで不安な2人の反対を押し切ってヒーローになると決めた

これが正しいのかはわからない
もしかするとああしておけばよかったといつか後悔する日が来るかもしれない

「絶対成功させようね」

「うん…っ!」

2人でコツンと合わせた拳
響香ちゃんとなら…A組のみんなとならきっといいステージになる、そんな気がした









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