46-終幕




2018年10月31日

渋谷



「だめじゃないか悟、戦闘中に考えごとなんて」

自分の前に立つ傑に気を取られた悟は罠に嵌っていた

「(呪力が感じられない、体に力も入らん…詰みか…)」

目の前にいる傑に目を向ける

「で、誰だよオマエ」

「夏油傑だよ、忘れたのかい?悲しいね」

「…肉体も呪力も、この六眼に映る情報はオマエを夏油傑だと言っている

だが俺の魂がそれを否定してんだよ!さっさと答えろ!!オマエは誰だ!!!!」

取り乱し叫ぶ悟
そんな彼に傑は不気味な笑みを浮かべ額の縫い目の糸を引っ張った

「キッショ、なんで分かるんだよ」

縫い目が解け切った傑の頭は蓋のように外れ、その脳が姿を現す
人間の脳だが口がついておりそれが傑のものではないことは明らかだった

黒幕である羂索は夏油傑の体を乗っ取っていた
悟が歯を食いしばる

「そういう術式でね、脳を入れ替えれば肉体を転々とできるんだ、勿論肉体に刻まれた術式も使えるよ
夏油の呪霊操術とこの状況が欲しくてね、君さぁ夏油傑の遺体の処理を家入硝子にさせなかったろ、変な所で気をつかうね、おかげで楽にこの肉体が手に入った」

頭を戻していく羂索は何事もないかのように話す
悟は昨年の百鬼夜行で犯したミスに気がつかされた
確かに遺体を補助監督に任してからは一度も確認していないのだ
傑だけじゃない、世那も同様に硝子に回すようなことはしなかった

「心配しなくても宝生世那はちゃんと墓の中にいるよ
ずっと一緒だなんて思っていたようだが一人で冷たい墓の中にいるなんて笑えるね
本当に馬鹿な女だ、キミを選んでいればもう少し長生きできたものを…」

「アイツを侮辱するな」

悟の表情に羂索は意外そうな顔をした

「おや?キミには宝生世那より夏油傑の方が効果があると思っていたんだが…どうやら読み違えたらしいね」

「こっちは片思い11年目突入してんだよ、ナメんな」

「報われないのに健気だね、全く理解出来ないよ」

「オマエに理解されたくねーよ」

ケッと悪態ついた悟は羂索を睨みつける

「まあ、封印はその内解くさ、100年…いや1000年後かな
君強過ぎるんだよ、私の目的に邪魔なの」

「ハッ、忘れたのか?僕に殺される前その体は誰にボコられた?」

「乙骨憂太か、私はあの子にそこまで魅力を感じないね
無条件の術式模倣、底無しの呪力、どちらも最愛の人の魂を抑留する縛りで成り立っていたに過ぎない、残念だけど乙骨憂太は君になれないよ」

どこの誰だか分からないがウチの生徒を見縊らないでほしい
何のために自分が教鞭を執ったと思っている、と悟は羂索への嫌悪を募らせていく

「おやすみ五条悟、新しい世界でまた会おう」

悟の脳裏には一年前に受けた呪い


-傑、を…お…ね…がい…-


死の間際に託されたこと

「(言われなくても分かってるよ
オマエが傑大好きなように、俺も親友を弄ばれていい気はしない)」

悟は不敵な笑みを浮かべ羂索を見た

「最期に呪いを吐いたクッソ重い面倒な女だったけど、アイツに頼まれたんでね……

オマエはそろそろ起きろよ
いつまでいい様にされてんだ、傑」

もしここで言いなりになるような奴なら世那を譲るなんて真似はしなかった
最強と呼ばれ肩を並べた親友
その強さは自分が誰よりも知っていた

羂索の意思とは関係なく動いた傑の右腕
それが自らの首を締めるように動き力を込める

「あっはっは!凄いな初めてだよこんなの」

『夏油ー』

と、その時、無量空処から目覚めたのか真人が羂索に歩み寄る

「真人見てくれ、君は魂は肉体の先に在ると述べたがやはり肉体は魂であり魂は肉体なんだよ、でなければこの現象にも入れ替え後の私の脳に肉体の記憶が流れてくるのにも説明がつかない」

面白いと告げる羂索に真人は呆れているようだ

『それって一貫してないといけないこと?俺と夏油の術式では世界が違うんじゃない?』

「術式は世界か…フフ…いいね素敵だ」

「おーい、やるならさっさとしてくれ…ムサ苦しい上眺めも悪い」

自分はここで戦線を離脱する
だが自分には仲間や、育てた生徒達がいる
きっと彼らならこの封印を解くだろう

「フッ…こちらとしてはもう少し眺めていたいが、そうだね何かあっても嫌だし…」

「(世那…ごめん、傑のことはもうちょっと待ってて)」

一人で最愛の人の帰りを待つ彼女はどんな表情をしているだろうか
のこのこ封印されたことを怒るだろうか

「閉門」

暗くなる視界
最後に見えた親友の姿
その顔を目に焼き付け、必ず解放すると胸に刻んだ

これが自分にかけられた呪いなのだから





Fin.






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