05-羨望





2006年 4月


「世那さーん!」

廊下を歩いていた傑と悟
その二人が聞いたのは中庭で叫んだ空の姿

遠野空、呪術高専の一年生
傑と悟からすれば後輩である

「おー、アイツまた世那に絡んでんじゃん」

空が手を振る先には硝子と共に歩いていた世那
空は初見で世那に告白するというとんでもないことをしでかした存在
傑も悟も衝撃を受けたが、世那はあまり本気にしていないようでいつも受け流していた

「懲りねーよな、ほんっと良い子チャンって感じでさ
呪術師向いてねーよ、アイツ」

「とは言いつつ遠野の稽古をつけてあげてるんだろう?珍しいね、後輩とか興味ないと思っていたんだけど」

「別に、ただの暇つぶし」

咥えていた棒付きキャンディーを転がしながら空から傑へと視線を移した悟

「つかさー、傑ってぶっちゃけどう思ってんの?」

「何が?」

「世那のこと」

悟の目がサングラス越しに傑を捉える
傑もまた少し反応は見せたものの、いつも通り笑顔を見せた

「言っている意味がわからないな」

「とぼけんなよ、好きなんだろ?」

悟の詰めるような物言いに傑はゆっくりと目を開いて悟を真っ直ぐ見つめ返す

「そういう悟こそどうなんだい?」

「あんなガキ興味ねーよ、それに今聞いてんのは俺の方だろ」

「…なるほどね」

予想的中
悟が誤魔化す時の癖が出た
世那を見る目が徐々に変わっていたこともとうの昔に気がついている

喧嘩するほど仲がいいとはよく言ったものだ、悟と世那には他者には分り得ない程の共感できるものがあるらしい
二年になった今、二人の喧嘩も少なくなりどちらかと言えば気が合うことも多い

傑からすれば親友である悟と、そんな悟と距離を縮める世那
諦める事も視野に入れ始めたのが本音だった

「最近世那を連れて何処へ出かけているんだい?」

「あー…五条家
なんかじいさんが世那のじいさんと知り合いらしい」

「ふーん」

ニコニコと笑う傑に悟は眉を顰める
悟は薄々自分が世那の事を好きだとは自覚し始めていたが世那は傑のことが、傑も世那のことが好きなのは理解していた
だからこそ傑が世那を好きだと認めるなら諦めるつもりでもいた

しかし傑が頑なに認めないのでヤケになっているのだ

「傑、お前が認めねーなら俺も認めねーからな」

「(もうそれ世那の事好きだって認めてるようなものだけどね)」

親友である自分のことまで考えてくれる悟の背中を眺めていた傑はゆっくりと口角を下げ無表情になる

「(悟、私は君にも嫉妬してしまうような酷い奴なんだ…世那と結ばれる資格なんてない)」

中庭の方を見れば空に絡まれ楽しげに会話をしている世那の姿
彼女と両思いのはずなのに何でこうも遠いのか

悟がいなければこんな思いをせずに済んだのだろうか

そこまで考えた傑はハッとして今の自分の思考に口を押さえる

「(良くないな…考えるのは避そう…)」

その心に生まれた嫉妬の炎は着実に彼を蝕んでいた











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