100-東西





2018年9月中旬



今日は交流会1日目


朝の職員室で紅茶を飲む建人と世那
その二人の向かいには机に長い足を乗せだらだらしている悟

三人はもう少ししたらやって来る悠仁を待っていた
教師である悟と世那はそのまま交流会に、建人は術師として任務に向かう前に悠仁に会っておきたかった

「七海ィなんか面白い話してぇー」

暇を持て余した悟の依頼
しかし建人も世那も無反応
巻き込まれたら面倒だと知っている為だ

「よし分かった!じゃあ廃棄のおにぎりでキャッチボールしながら政権分離について語ろうぜ、動画上げて炎上しようぜ」

「お一人で…何が分かったんだか」

たまに悟を馬鹿なんではないかと思う世那は紅茶を飲みながら自分の彼氏の姿に呆れ返る
真面目な話が出来た事があったか考えるが、考えれば頭が痛くなりそうだったので中断した

「五条悟の大好きな所で山手線ゲーム!」

パンパン!と手を叩いた悟が「全部!」と言い放つ
自分で言って恥ずかしくないのか

「その調子で頼みますよ、今の虎杖君にはそういう馬鹿さが必要ですから」

そう、先日の任務で悠仁は辛い思いをしたばかりなのだ
人を殺すなんて呪術師をやっていれば当たり前のように起こるハプニング

しかし悠仁にとっては違う
この前まで平凡な高校生だった彼がこんな運命に巻き込まれていくのは世那としても心苦しい

「重めって、そういう意味じゃなかったんだけどなぁ…」

悟も反省したような声を出す
彼だって任務の全貌を把握していた訳では無い
あくまで一級レベルの任務の同伴、その予定だった

「吉野って子の家にあった指について悠仁に…」

「言ってません、彼の場合不要な責任を感じるでしょう」

世那も建人も相手がこちらを引き摺り出す為にわざと宿儺の指を置いたことも、その宿儺の指を使用して悠仁のトリガーを引こうとしていたことも分かっていた
だがそれは悠仁が知らなくていいこと

「オマエに任せて良かったよ…で、指は?」

「ちゃんと提出しましたよ、アナタに渡すと虎杖君に食べさせるでしょ」

「チッ!」

建人の言葉に舌を鳴らした悟
そんな三人の元にドタドタという足音が聞こえてくる

「あっ!先生ー!!!!はやく皆のとこ行こうぜ!」

ハイテンションで入ってきた悠仁
久しぶりに恵や野薔薇に再会すること、二年生との邂逅、そして京都校の面々にうずうずしていた
そんな悠仁が「おっ、宝生先生もナナミンもいる!」と笑うので二人は少し微笑む
悠仁が元気そうで安心した

「悠仁…もしかしてここまで引っ張って普通に登場するつもり?」

だがその安心は悟の一言で崩れ去る
どうやらまた馬鹿なことを考えたようだ

「え!違うの!?」

「死んでた仲間が二ヶ月後実は生きてましたなんて術師やっててもそうないよ…やるでしょ、サプライズ!」

「サプライズ…」

「ま、僕に任せてよ
一年は嬉しさと驚きで泣き笑い、二年も京都ももらい泣き、嗚咽のあまりゲロ吐く者も現れ最終的に地球温暖化も解決する」

五条悟はバカであった

「イイネ!!!」

そして、虎杖悠仁もバカであった

「何したらいい!?先生俺何したらいい!?」

「何もしなくていい!僕の言う通りにしろ!」

「だから何したらいい!?」

悠仁の方がまだマシであるが基本的に似た者同士の二人を眺めていた世那と建人は遠い目をする

「…生きてるだけでサプライズでしょうよ」

「確かに…てゆーか馬鹿すぎない?」

「言っておきますが、たまに宝生さんもあちら側になる時ありますよ」

「えっ」

なんだそれと建人を凝視する世那
そんな彼女を他所に建人は優雅に紅茶を飲み干した




ーーーーーーー
ーーー




作戦会議をしている悟と悠仁を他所に、世那は建人と別れ東京校の生徒たちの元へ向かっていた

「あれ、野薔薇は?」

集合時間になっても姿のない野薔薇を探しキョロキョロしていると、なにやらガラガラという大きな音と共に彼女は現れる

「あっ!世那さーん!!…っえ?!なっ、なんで皆手ぶらなのー!?」

その手にはキャリーケース

「オマエこそなんだその荷物は」

「なにって…これから京都でしょ?」

「京都で姉妹校交流会…」

「京都の姉妹校と交流会だ、東京で」

ようやく自分の勘違いに気がついた野薔薇が叫び始める
それに苦笑いする世那
悠仁も大概だと思っていたが、野薔薇もまた大概だと

「去年勝った方の学校でやんだよ」

「勝ってんじゃねーよ!!!!」

「俺らは去年出てねーよ、去年は人数合わせで憂太が参加したんだ」

「”里香”の解呪前だったからな、圧勝だったらしいぞ」

な?と声をかけてきた真希に世那は頷く
たまたま人数が足りず悟が面白半分で憂太を出してみれば、里香は暴走こそしないものの力を憂太に貸して圧勝したのだ

「許さんぞ乙骨憂太ー!!!!」

会ったことの無い憂太へ叫ぶ野薔薇
きっと彼が見たらビックリするだろうと思っていると、世那はふと気配を感じ振り向く
そして真希も同じように振り返った

「おい、来たぜ」

そこにはぞろぞろと現れた京都校の生徒たち

「あらお出迎え?気色悪い」

「乙骨いねぇじゃん」

真依の憎まれ口と葵の残念そうな声
聞いたところによると以前交流会の打ち合わせで彼らは来たらしく、その時に恵や野薔薇と揉めたそうだ
それを知っていた世那は黙ってその光景を眺める

「うるせぇ早く菓子折り出せコラ!八ツ橋・くずきり・そばぼうろ!」

「しゃけ」

「腹減ってんのか?」

「怖…」

ドン引きしている京都校にその反応が正しいと世那も頷く
東京校のガラの悪さは天下一品だ、主に女子

「乙骨がいないのはいいとしテ、一年二人はハンデが過ぎないか?」

「呪術師に歳は関係ないよ、特に伏黒君
彼は禪院家の血筋だが宗家より余程出来がいい」

そう告げたのは加茂憲紀
次期当主と言われている嫡男

去年初めて見た時は加茂家ということに動揺したが、御三家と言えど学生
世那は偏見はよくないと平等に接していた
それに非常に丁寧でいい子なのだ

「チッ」

しかし憲紀の言葉に苛立った真依は舌打ちをする

「何か?」

「別に」

京都校は内部でバチバチやってるんだなと思っていると、パンパンと手を叩く音が聞こえる

「はーい、内輪で喧嘩しない
まったく、この子らは…」

階段を登ってきたのは京都校の引率教師である歌姫
その歌姫は世那を見つけた途端、嬉しそうに顔を緩めた

「世那じゃない!」

「歌姫先輩、お久しぶりです」

「相変わらず可愛いんだからー!」

よすよすと世那を撫でる歌姫
普段は自分達を子供扱いする世那が子供扱いされ撫でられ可愛がられている光景は意外だったのか東京校一同は驚く

「で、あの馬鹿は?」

先程までの世那に向けていた心の底からの笑顔は消え去り、本当に嫌そうに顔を歪めた歌姫から出た言葉
それに世那が「えーっと」と反応しようとするが、それより早くパンダと真希が反応した

「悟は遅刻だ」

「悟が時間通りに来るわけねーだろ」

「誰もバカが五条先生のこととは言っていませんよ」

冷静にツッコミを入れる恵
しかしこの場の誰もがバカ=悟ということは理解していた

「おまたー!!!!」

噂をした途端、大きい箱を積んだ台車をガラガラと押しながら走ってくる悟の声が響く

「五条悟!」

歌姫が苦虫を噛み潰す表情をした隣では世那が苦笑いを、そしてその傍では霞が嬉しそうに彼を見ていた

「やあやあ皆さんおそろいで、私出張で海外に行ってましてね」

「急に語り始めたぞ」

遅れてきたくせにハキハキ話す悟にパンダは思わずツッコミを入れた

「はいお土産、京都の皆にはとある部族のお守りを…歌姫のはないよ」

「いらねえよ!!」

毛糸のようなものでぐるぐる巻きにされたお守りを京都校の生徒達に配る悟
世那は「(そういえば私お土産もらってないな)」と思いつつも一連の流れを見ている

「そして東京校の皆にはコチラ!!」

「ハイテンションな大人って不気味ね」

野薔薇の的確なツッコミにパンダが頷いた
次の瞬間、台車に乗っていた箱から飛び出してきた悠仁

「故人の虎杖悠仁君でぇーっす!!!」

「はい!おっぱっぴー!!!!」

悠仁の登場にドン引きしている東京校一同
世那は自分は何も知らないと言うように顔を押え俯いた

「(えっ…えーーーーーー!!!!???全っ然!嬉しそうじゃない!!!京都の人らは…お土産に夢中ー!!!!)」

予想外の反応に冷や汗だらだらの悠仁
そんな彼を見た両校の学長

「宿儺の器!?どういうことだ…」

殺したはずの悠仁が生きていた
それがよほど衝撃だったのか嘉伸は目を見開いている

「楽巌寺学長ー!いやー、良かった良かった」

その姿を見るや否や、悟は心底楽しそうに歩み寄る
そして嘉伸の背に合わせて腰を曲げて眼前でいい笑顔を見せた

「びっくりして死んじゃったらどうしようかと心配しましたよ」

「糞餓鬼が」

ブチギレたその姿に世那は青ざめた
悟は悠仁にはサプライズと言いながら、本当の目的はこっちだったのだ
自分に嫌がらせをしてきた上層部への仕返し
やられたらやり返すのが彼のやり方

つまり悠仁は完全に巻き込み事故をくらったわけである
呆れて眺めていた世那は放置されていた悠仁へと目を向ける
どうやら彼の前にいた恵と野薔薇も状況を汲み取ったらしい

「おい」

ガンっと悠仁の入っている台車を蹴る野薔薇

「あ、はい」

「何か言うことあんだろ」

「え」

野薔薇の目には涙が溜まっており、そんな彼女が悠仁を睨みつける
生きてた安堵、そして死んでしまった悲しみが混ざり感情がぐちゃぐちゃなのだ

「黙っててすんませんでした…」

悠仁の弱々しい声が聞こえたので世那は仲裁に入ることにする
半泣きになっていた悠仁は彼女を見て情けない表情で「助けて」と呟いた












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