短編
 贖罪の日々



ずっと後悔していることがある
ラクーンシティの事件が起こったあの日、私は彼氏のレオンに酷いことを言ってしまった

「どうしてなのレオン、私やめてって言ったはずよ」

キッと彼を睨みつける私の手にはレオン宛に届いた自宅待機の要請書
宛名はR.P.D.つまりラクーンシティの警察署からだ

「わかってくれなまえ、俺にもできることがあるかもしれないんだ」

「今のラクーンシティは変な化け物が目撃されてるって噂じゃない!貴方にもしものことがあったらって心配なのよ」

先日から噂されている事件の数々、それが全てラクーンシティ近郊で起こっていることからレオンには口酸っぱくしてR.P.D.にだけは希望を出さないで欲しいと懇願してきた
それなのにご覧の通り彼は見事R.P.D.に配属されたというわけだ

「君に言えばこうなるって分かってた、だから黙ってた」

「…ええ、そうね…いいわ、レオンがその気なら勝手にすればいいのよ」

「何だって?」

「しばらく距離を置きましょう、私たち上手くいってないもの」

レオンが自分の意見を無視して決めてしまったことに怒りを覚えた私は諦めに近い感情で思わずそう言ってしまった
呆気に取られているレオンを放って彼の家を飛び出した私はそのまま就職先である出版社へ向かう

それから急遽出張の予定が入ったためしばらくレオンに会うことはなかった

日が経てば経つほど声の掛け方がわからなくてレオンのことを考える時間は減っていった
このまま自然消滅もあり得るなと思っていた矢先、ラクーンシティでバイオハザードが起こったというニュースを目撃した
その結果政府がラクーンシティを消滅させたということも同時に知る

出張から帰ってすぐにレオンの家へ向かうけれど彼の姿はなく、残されていた置き手紙には彼がラクーンシティへ向かうという旨が記されていた

彼に酷いことを言って謝ることもないままレオンは死んでしまったのだ

それを知ってから自分の犯した愚行を悔いる日々だった
6年経った今でもレオンと過ごした幸せな時間を夢に見る

「みょうじさん、聞いてますか?」

取引先からの問いかけにハッとして今が商談中だったと思い出す
資料の一つにラクーンシティのことが載っていたせいで感傷に浸ってしまったらしい

その後商談を手短に済ませてから向かったのはラクーンシティ近くの小さな町、ここには犠牲になった人を弔うための石碑がある
あまりにも多くの人が亡くなったため一人一人の名を刻むことはないが、それでも悲劇に見舞われた人が安らかに眠れるようにと用意されたものだ
そのため多くの人が故人を弔いにここを訪れる

毎日同じ時間に行われる追悼の儀式
それに参加して思い出の中のレオンへ謝罪する

「(レオン…貴方にもう一度会いたい…ちゃんと謝りたい)」

警察に憧れひたむきに努力する彼を好きになった
正義感が強くて困っている人がいると手を差し伸べる優しさが好きだった
カッコつけようとして失敗してる可愛いところも、犬のように喜怒哀楽がはっきりしているところも、彼のことが本当に好きだった

「(なのに私は…っ)」

誰かの役に立ちたいという彼の意見もちゃんと聞かずに突き放して、彼が死んでから後悔するなんて自分勝手だ
この先何年、何十年かかってもずっと彼に謝り続けるしかない

儀式が終わり、人が減っていく
私も帰ろうかと身を翻した私の目に映った人物、それが誰なのかを理解した途端息が止まった

変わらない金髪に青い瞳
前よりもずっと屈強になった体つきをした彼がそこにいた

「っ…うそ…」

だって彼は死んだはずだ
あの後家にも戻ってなかった様子だった、連絡もつかなかった
それなのにどうしてここに彼がいる

硬直している私の視線に気がついたのかレオンの瞳がこちらを向く
すぐに驚いたような表情になって、彼の表情も私と同じものに変わった

地面に縫い付けられているかのように重たい足を一歩、一歩と進めて彼の下へ向かう

「レオン…レオンなの…?」

震える声でそう尋ねれば、レオンは私を力一杯に抱きしめる
ふわりと鼻腔に届くその香りはあの頃と変わらない

「ああ、俺だ…!」

その言葉を聞いてぽろりと瞳から涙が溢れた
一度溢れてしまえば止まることなく次々と溢れ出す

「なまえ…ずっと…ずっと会いたかった…!!」

「死んだと思って…私…ずっと謝りたくて」

「この通り生きてるさ、だから泣くなよ」

少し体を離してから私の顔を覗き込むように身を屈めたレオンは困ったように眉を下げて微笑む

「そんなこと言っても6年よ…この6年ずっと後悔してたんだから」

自分が犯した愚行
やり直せたらと何度も何度も懇願した
この先もそれは続くと思っていた、でも違った

複雑な感情が入り混じる私に比べてレオンは嬉しそうな表情だ

「それって…つまり…それだけ俺の事を考えてたって?」

そう告げた彼に呆気に取られるものの、そう言えばこう言う人だったと私もつられて微笑む

「ああ…レオン、貴方って本当に変わらないのね」

「そういうキミは綺麗になった、見惚れるよ」

キザな歯の浮くようなセリフをさらりと言えてしまうのがレオン
整った顔立ちでこういうことを言えるためか昔から大人気だったけれど、今は更に大人の色気が増していて正直目に毒だ

「…随分口説き方がお上手ね?」

この6年で素敵な女性と出会ったのかしらと拗ねたように言えば、レオンの指が頬に添えられる

「まさか、ずっとキミだけを想ってたさ」

愛しさを孕んだその瞳に吸い寄せられるように私たちは口付けをかわす
当たり前のように来ると思っていた明日は来なかった、それでもまた彼と出会えたのは奇跡だろう
ならばこの奇跡を手放さないよう生きていこう








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