短編
 my hero!





午前7:00


満員電車程でもないけれど適度に混みいった電車に押し込まれ、今日も好きでもない会社へと足を運ぶ

いつからこんなに味気のない日々になったんだろうか

学生時代はそれなりに謳歌したつもりだけれど、心の奥底にどこか未練があるのは何故か

ふと広告を見上げるとそこには懐かしい顔がいた


「守沢千秋じゃん!」

「本当だ!かっこいいよねー」


同じ広告を見て女子高生がキャッキャッとはしゃぐ様子から見てもわかるように彼はとても人気なアイドル

昔はどこにでもいるような優しくて、真っ直ぐで、少し怖がりな普通の男の子だったのに、いつしか彼は日本中の世間を照らす太陽のようなアイドルへと変身してしまった

思えば未練はこれなのかもしれない

目の前の女子高生からしたら羨ましい展開だろうけど小学生の頃、一度だけ守沢くんと同じクラスになった事があった

当時は無邪気な仲間はずれという名のいじめが流行っており、私はその被害者だった


「こっち来んなよブス!」

「ちょっと本当のこと言うのやめてあげなよー」

「見てこのぬいぐるみ!ダッサ」


小学生だから何してもいいの?
悪意がなかったら私はいじめられてもいいの?

みんな揃えてこう言うんだ

「いじめてるつもりはなかった」って

毎日つらくてつらくて学校に行くのをやめようかと思った時だった


「やめろ、これはいじめだぞ」


その一言でクラスの子達はハッとしたようにばつが悪そうな顔になる

あの時その一言を発したのは紛れもなく守沢千秋くんだった


懐かしい事を思い出しながらも電車を降り、街中を歩いていると、大きなエキシビションテレビに映ったのは流星隊
センターには私を助けてくれた守沢くんがいる


『日本中に笑顔と元気を届けるぞ☆』

『朝から暑苦しいっスよ』

『そろそろ尺がまずいですよ〜』

『なにっ?!それでは声を揃えて、せーの…!』

『今日も元気に行ってらっしゃい!』


相変わらずドタバタで忙しい人だけれど、ちゃんと届いたよヒーロー

きっと彼は私の事なんか覚えてないだろうし、手の届かない所に行ってしまったけれど、あの日助けて貰ったことは私の心にしっかりと残ってる

あなたがくれたエールを胸にまた前へ進み出せるから


「ありがとう、守沢くん」


君に救われた私は今日も未来へ向かって生きてます


これはヒーローとほんの一瞬ヒロインになった私のお話だ










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