過去が大好きな旅人
「やぁ。久しぶり◆」
胡散臭い奇術師はニンマリと口を歪めた。
丁度暇であったらしい彼は、私の宿泊していた小さな街へとやって来たのだった。
「そうでもないよ。半年ちょっと」
行く宛は無かったが、取り敢えず河に沿って二人で歩く。
生憎、奇抜な風貌の彼と共に何処かに入る気はなかった。悪戯に周りの視線を集めてしまうから。かといって、全く人気が無いのも駄目だ。危険すぎる。
多少の人目がある場所。それが彼と居るときに最も安全な場であると、長い付き合いの中で学習していた。
「そういえば、クロロを探してるんだって?」
「まぁ、うん」
四六時中一緒に行動してはいなかったけれど頻繁に会っていた彼が、急に姿を消した。連絡も通じず、音信不通。
念能力を封じられ、仲間とも引き離された状態で東へ向かったことは掴んでいるけれど、分かっているのはそれだけだ。行方不明な事に変わりなかった。
「君も彼と闘いたかったんだろ◆」
凄く寂しそうな顔してるし★ とヒソカは笑う。難なら自分が相手になろうか、とも。
「戦闘狂の貴方と一緒にしないで」
私はクロロと闘いたかった訳じゃない。そんなんじゃない。ただ――。
……ただ、何なんだろう?
握られた手を振り払った。
街は既に暗がりに覆われていた。
店先に掲げられた提灯が、ボンヤリと互いの姿を照らしている。
時折、河の上流の方から灯籠が流れていた。無数の影が視界をちらつく。
「で、本当の理由は?」
何て面白そうに訊くのだろう。こういう時の彼は少々面倒だ。興味の無い事には徹底的に無関心の癖に。
「……私は、以前の彼が好きだった。だから勝手に変わってしまった彼が許せない。だから彼を見つけてぶっ飛ばすの」
「本当にそんな理由?」
「……ええ」
眉を潜めた彼は納得していない様だ。
私自身でさえ、言ってはみたものの何だかしっくりこない理由だから無理はない。彼は鋭いし。それでも、分からないのだ。私がクロロを探している理由が。
「……僕には君が、置いていかれた仔猫の様に見えるけどね◆」
ヒソカが何かを呟くが、丁度通り掛かった車の音に掻き消された。
「何か言った? ヒソカ」
相変わらず灯籠が流れている。遠くから誰かの楽しげな話し声がする。
「いいや、なーんにも★」
ニヤニヤと。彼はやはり笑っていた。
過去が大好きな旅人
(……の様に装ってはいるけれど)
3月13日 灯亞.
×End