口八丁の手八丁
「だから浮気なんてしてないったら」
しつこい男は嫌われるよ、と忠告してみるが一向に聞こうとしないヒソカの様子に微かな苛立ちが沸いてくる。
「知らない男と遊んでた上に嘘ばかり言って、イケナイ子だねぇ、君は」
まいったなァと溜め息をこれ見よがしに吐いていながら実際には平常心な 彼はやはり質が悪い。
「知らないって……、あれクロロじゃない」
「くろろ?」
「……」
出たよ、知らんぷり。
明らかにこの状況を楽しんでいるヒソカを一発殴ってやりたい衝動に駆られたが、伸び縮みする愛によって椅子へと拘束されている今、それは無理なことだった。
「あんたが今お熱な旅団の頭!」
「ああ、何だクロロか」
「…………」
何をそんな平然と。
あっけらかんと表情を変えたヒソカに殺意を覚えた私は彼を睨んだ。徐々に気性が荒くなってくる私の精神状態。
「冗談、そう怒るなよ」
ああ、もう!
彼が常時している、語尾に記号をつけた様な喋り方にでさえ腹が立つ。何だか煽られている、そんな感じ。大体私は彼の人を食ったような性格が気にくわないのだ。
――今だってそう。
「……っていうかさ、貴方って例え私が本当に浮気しても、さして気にしないでしょ。いい加減これ外して」
これだ。怒ったふりなんて面倒なだけだから止めて欲しい。相当なお気に入りでない限り執着することはない奇術師の気まぐれにいちいち付き合っていたらきりがないし、振り回される自分自身も嫌だった。言われて驚くヒソカ。ニヤリと自分の念で出来たそれに触れる。
「そうでもないよ。相手が彼で良かった。ギリギリセーフ」
「は? それって、どうい……っ!」
ちょっと意味深だった、ヒソカの言葉を気にした私が馬鹿だった。いきなりの暴挙に呆気にとられる。我に戻ったのは、リップ音が聞こえてからだった。
「他の男とこーんな事してたら、流石のボクでも殺しちゃうからね」
ペロリと舌を出すヒソカ。何ていやらしい顔なんだろうか。文句を浴びせてやろうと口を開く。その瞬間、してやったり顔の彼はじゃあねー、と何処かに行ってしまった。
「そっ、そもそもクロロとそんな事した覚えもないからっ!」
残された私はその場で叫ぶしかない。やはり、彼は大嫌いだ。
(もう最悪……、動けないし)
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口八丁手八丁: 喋ること、手先が達者なこと。 "八丁"の"八"は 八つの道具を使うことができるほど物事が巧みなこと、からきているそうです。(ちょっとした豆知識)
初めてのヒソカ夢……。よし、もうちょっと勉強しますねっ!
×End