茶飲み仲間の意志疎通
(姫がシャボンティにいた時のお話)
『もしもーし。 あのー、うちの子が遊びに行くらしいんで……はい、よろしくお願いしまーす。…………ああ。いや、もう止めたんすけど――』
そんな会話を電伝虫が伝えたのは正午のことだった。珍しく穏やかな昼下がりだったが、夕方からどうも嵐になるらしい。
いやいや天候的な意味ではなくて。
どっこいせ、と。
今の平和なうちに洗濯物でも取り込んでおこうかと腰をあげた。どうせ仕事が増えること受け合いだ。
「早めに干しておいて良かったな」
「ええー! いないのー!?」
船の端から端まで届くような声が聞こえたのは、あの伝電話から僅か数分後のことだった。
ハートの海賊団所属のバンダナを巻いた男の見込みは甘かったようだ。そのうちではなく、直ぐ来たぞ。
洗濯物を取り込む暇さえなかったな。
頭では残念がりながらも、足取りは以外に軽かった。面倒見はいい方なのだ、オレは。
「航海士が敵船へホイホイ来てもいいのか?」
背後から声を掛ければ、敵船の航海士――姫、は花開くかのような笑顔を向けた。黙っていれば中々なのだが、とつくづく思わされる。
「HEY! 殺戮屋さんっ」
姫の元気な挨拶と共に、両手へと置かれたのは小さな小包だった。
パッケージに見覚えのあるロゴが入っていることから、中身が最近人気の店の菓子類であると判断した。
「これはご丁寧にどうもだな」
適当にあしらってから帰そうと画策していたのだが、これは困った。
以外にも姫は、礼儀知らずではなかったらしい。
「…………茶でも出してやろう」
面倒見はいい方なのだ、オレは。
* * * * *
そんなこんなで、敵船同士である副船長と航海士が仲良く茶をシバきあう画ができた。
「どうした? 珍しく黙って。……あぁ、お前もストローがいるのか?」
「……えー、あ。うん。私はいいかなー」
いつもの様に飲み物を喉へと運ぶ。
そんなおれを凝視している姫は、少し大人しかった。
すんなり茶を出されたから内心驚いている。大方、そんなところだろう。
「不思議か?」
仮にも自分は副船長だ。そんなにホイホイ敵を招くものか。自分がこんなに友好的な態度をとるだなんて思ってなかった。
理由があるとすれば、姫を今の時点で敵だとは思えないから、だろう。
目的の上で対立すれば話は別だけれど。
「ええ!? まあ、衝撃的っていうかショッキングというか……」
「ハハ、確かに平時ならこんなことはしない。……が、これはこれで悪くもない」
戦闘は好きだが、戦闘狂ではない。
こんな時間を過ごすのもたまにはいい。
「え、何時もはしてないの!?」
驚愕の事実を発見したかの様な姫の表情。そんなに驚くこともないだろう。
「当たり前だ。そもそも、キッドが許すと思うか?」
アイツが他の誰かと談笑しながら茶を飲み交わしている姿なんて想像出来ない。恐ろし過ぎる。
姫には多少の甘い部分があるキッドではあるが、やはり一定の線引きはしていた。こういった馴れ合いに近い行為に良い顔はしないだろう。寧ろしかめっ面だ。それが正解だとも思う。
「うーん。厳しい、んだね」
眉を寄せ出した姫。
「今に始まったことじゃないさ。もう慣れたし、そんなアイツに付いていくとも決めているしな」
横暴で横柄で豪快なキッド。
彼の相手は並大抵では務まらない。不満を持つことはあった気がするけれど、それ以上の魅力がある。
「好きなんだねっ。ユースタス屋のこと」
本日何度目かの屈託のない笑顔。
釣られたように、おれの口元も緩む。
「ハハ、どうだろうな」
勿論、恋慕ではないし友愛とも違う。
強いて言うなら、あの純粋な力に惹かれているのだ。
「というか、キッドが居ない時はまともに呼ぶんだな」
「まあね」
茶飲み仲間の意志疎通
-----------------
1000hit企画のリクエスト。
星猫様に捧げます。
SBSネタでした。
分かりにくいですが、姫はキラーのストロー(仮面の穴に突っ込まれている)に反応しています。
2012年10月6日 灯亞
×End