贖罪
小高く持った砂の近くには、大人一人分程の穴が空いていた。更にその隣には、若い軍人が横たわっている。
もう目を開くことはない青年だ。
「随分と掘ったものだな」
背後から聞こえた声に首を竦める。
なるべく人気のない場所まで来たのに、目敏く発見されてしまったらしい。
振り向けば、予想通りに彼が居た。砂や血に塗れた汚れきった格好のままでは、その綺麗な顔が台無しである。
こんな状況では仕方のないことだけれど。
「ここに埋めるつもりか?」
出会った頃より大分、大人びた喋り方。思えば、それは彼が軍人に――国家錬金術師になると決めた時からだった。
それがどう、とかではない。
ただ、数年前は、彼も私も錬金術だけが取り柄の子供だったのにな、とふと思うだけだ。
「この場所に埋めて欲しいって、彼が言っていたの」
「そうか……」
友人を亡くしたと思ったのだろう。
ロイは慰めの言葉を言いあぐねているかの様だ。
「先に言っておくけどね。彼とは、別に親しかった訳じゃないよ。……私が錬金術師じゃなかったら、こんな頼みは聞いてないし」
たとえ道具があったとしても、こんな砂だらけの場所に大人一人分の穴を掘るだなんて、すごい作業だ。ほんの二三日前に知り合っただけの青年にそこまでしてやる義理はない。
「全く、何を考えてんだろ……安らかに眠れる筈ないよ、こんな場所で」
砂塵の舞う不毛の大地で、自らの手で葬り去ったイシュバール人達と共に……だなんて。生前の彼曰く、自分に安らぎは必要ないそうだけれど。
「きっと償いだろう」
隣にロイが青年を穴の中に横たえて、土を盛っていく。
「なんて自虐的で独善的な考え」
誰も救われないじゃないか、と。殲滅の最中に、最早そんな概念は無いに等しいが。
それでも――そうだとしても。
最後に見た彼は、配給されたコップ一杯足らずのビールを片手に項垂れていた。
家族との再会は望めそうにないと。
会わす顔が無いのだと、彼は呟いていた。ランプで照らされた瞳が異常にキラキラと光っていたのを覚えている。
……本当に、救われない。
「そう言ってやるな」
肩を叩かれる。
ああ、本当になんて大人びてしまったものだろう。昔の彼はこういう時、大抵黙ったきりだった。
「雨でもさ、降ってあげればいいのにね」
「ここは砂漠だぞ?」
分かってるよ。
――空に感情なんて在る筈がない。
世界はこんなにも無情なのだし。
「それなら、ロイが代わりに泣けば?」
「いや……」
ほら、戻るぞ。
そう言って、私の手を握った貴方は温かかった。
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1000hit企画のリクエスト。
イシュバール時代のロイでシリアスでした。
……あれ? モブキャラの出張り感!
6月11日 灯亞
×End