無茶し過ぎました(Law視点)
「おはよーございます」
「あ?……ああ」
ある朝、何処かボンヤリとした様子のリコリスが部屋から出て来た。もはや習慣となっている"モーニング飛び付きアタック"も繰り出してこない。(意図的に覚えている訳では無い。ただ、ふざけたネーミングが余りに阿呆らしかったから記憶に残ってしまっているだけのこと)
つい、無意識に身構えるものの少し拍子抜けだ。
そんな俺とは裏腹に、航海図をエターナルポース片手に広げるリコリス。
「元気なロー船長に吉報です。あと何日かで、どこかしらの島に出発しますよー」
「何だそのあやふやな吉報」
間延びした間抜けな声と間抜けな面。まだパジャマ姿で着替えてもいない。
「行き先はー……此処っ!」
ススッと紙の上を滑る指の先には小さな島。
「あっ、それと、今日は乙女のお着替え覗いちゃダメですよ」
「おい、おれが何時も覗いているように言うの止めろ」
「はーい」
素直に頷き、ズルズルと自室へ戻っていくリコリス。やはり、おかしい。……というか、これは確実にあれしかないだろう。なんて分かりやすい奴だ、と苦笑した時、物が勢いよく倒れた音が響いて急に静かになった。
「おれは外科医なんだがな」
指名手配書にも"死の外科医"と明記されている筈だ。
「ファイトっす、船長」
――だから昨日、髪をさっさと乾かせと言ったのに。
* * *
「頭痛い、です」
「だろうな。さっき盛大に倒れた時にぶつけてた」
ぼやくリコリスの額に濡らしたタオルを乗せる。熱さましも兼ねてのそれは気持ち良かったらしく、眉間の皺が一旦退いた。……が、直ぐにまた寄った。
「鼻がぁー」
「それは風邪のせいだろうな」
「乙女が鼻水だなんて世界の男性に笑われますよー。どんな可愛い子ちゃんでも鼻水垂らしてちゃ台なしです」
何か渡さないと布団で拭きそうだったのでちり紙を渡す。
「安心しろ。まず、お前を乙女だと思っている奴がいない」
「失礼な。私は何時でも恋する乙女です。ロー船長限定バージョンで」
「…………」
反応しにくいのでスルーしていると、リコリスは不満げに唸っていた。
「馬鹿野郎が、早く治せ」
「ロー船長がいるんだもの、大丈夫ですよー」
「っ……おれは"外科医"だ……!」
ニッコリと笑ったリコリス。
どこと無く落ち着かない気分になったおれは取り敢えず、体温計でも持って来るかと腰を上げた。
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久々連載。
今回は次回への為のお話です。
8月11日 灯亞
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