失敗なんてよくあること
島の中はそれはそれは面白かった。
しかし、山登りとなれば話は別である。
「話をまとめよう。つまり……登れない」
「滑るんだよ、硝子の石が」
傾斜がきつくなるにつれて、まるでビー玉のような石ころが増えてくるのだ。そして、かろうじてバランスを保っていたそれらに足を置けばすぐさま転がっていく。覗いた地肌は滑らかな陶器のようであった。
とても山は登れそうにない、と見張り役に船へと置いておいた船員達に説明するペンギンとキャスケットの顔は悔しげに歪んでいる。
「取り敢えず、山の周辺を探索してこい」
「あいー」
途方にくれていても宝箱は近付いて来ないのだ。リコリスとベポは島の周辺を歩くことにした。
「探索ってもねー」
別に何もないのに。抜け道のようなものも、何も。波だけが打ち寄せるただの海岸だ。
「なー」
あれだけワクワクしていた朝が薄れてきていた。硝子の景色にも既に慣れたし、何の変鉄もない場所に数十分も居れば気も滅入ってくる。
ベポの肩に乗っていたリコリスはやる気なくベポの頭にもたれかかっていた。
「そういえば、裏側の岩は普通だよね」
「うん」
「……さすが新世界、訳分からん」
* * * * *
「やはり、登るしかないようです」
「くくっ、さすがは新世界。一筋縄じゃいかねぇって訳だ」
ペンギンの報告にニヒルに笑うトラファルガー・ロー。
「余裕噛ましてる場合ですか、船長ー」
甲板に寝そべっていたバンダナが転がる。
「うるさい。お前も、その足りねぇ頭回して考えろ」
彼は黙る。
波音とカモメの鳴き声が聞こえた。
「……えー、ガムテープをですねー、靴の裏に」
「却下」
「この際、火で硝子溶かして……」
「何がしたいんだよ」
そんな二人の不毛なやりとりを他の船員は大して期待せずに見守っていたが、不意にリコリスが大きな声をあげた。
「だぁああ! 分かった! ロー船長っ、ロー船長っ!」
「な、なんだ?」
まるでバネが跳ね上がる勢いに押され気味のロー。
「釘を! 靴底に刺してザクザクと!」
――嗚呼、バンダナの案に毛が生えた。
ハートの海賊団、心の声が一致した。
「……それで行ってみるぞ」
しかし、そのくらいしか今のところ策はないのだ。それで行くことにした。
「アイアイっ!」
* * * * *
「……」
気持ちよくサクリとは刺さらなかった。……が、普通の硝子よりも脆かったのが幸いだった。
思い切り足を降ろせば滑ることはない。ハートの海賊団御一行は、所々に生えている木に掴まりながら少しずつ進めていた。
"ガシャッ! ガチャガチャ!"
「うるさっ!」
「おれ、耳が痛い」
作戦の関係上、凄まじい騒音が発生していたけれども。ペンギンとローはまだ無表情でいられたが、キャスケットとベポを始めとする他の船員達は顔をしかめていた。
「でも登れてるー」
"ガシャッ! ガシャッ!"
「リコリス跳ぶな! うるさい!」
段々と悪路にも慣れて、和気あいあいとした中で――ハプニングは突然だった。
「っ……!?」
ローの足下で異質な音が響いた。不幸にも、そこは支えになるようなものは何もない場所。
まるで、氷を踏み抜くようにしてローはバランスを崩した。
「危なっ!」
すぐ傍にいたリコリスがローの腕を掴んだ……が、如何せん力が足りない。
「ひゃぁあああーーー……」
みるみる崩れていく穴に二人は飲み込まれていった。
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ベタに突っ走ります。
3月10日 灯亞
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