小説を詰めていく場所(Log) | ナノ


01



クロコダイル/微甘?






バロックワークスの社員である姫の身体は小さい。おれの膝に跨がって初めて、お互いに首を動かさずとも目線を合わせることが出来るようになる程だ。姫は今、おれの膝上にいた。

つまり一般的な社員、社長のそれではなくそういう関係。

「小さい頃、夢ってありました?」

先程まで生気を保っていたバラ、もとい今はただの砂に触れながら姫は何となしにそう聞いてきた。

「さぁ、な。何かしらそれなりにあった気もするが覚えてはいない」

それを聞くやいなや姫の口元が満足そうに吊り上がる。

「それは結構な事ですよ」

何が結構なんだか分からないが嬉しそうな姫は傍に置いてあった薔薇を一輪おれに手渡した。
砂にして、って事だろう。この能力は決して玩具ではないんだが。因みにテーブルに置いてあるそれらは姫が持ってきたもので、更にその横の砂山はこれまでの作品。薔薇だった物の残骸だ。

不思議なものだと、屡々思う。
水分という水分を抜かれてしまえば、人間も草も変わらない。ならば、それらの違いは何なのか。きっと、姫に問えば、嬉々として饒舌に熱弁してくれるのだろう。

――感化されていやがるな。

別に不満な訳ではないが、それに気付く度に些か驚く。女などこれまでに掃いて捨てる程いたし、だからどうだということもなかった。感化されることなど前代未聞。要するに、自分は姫にそれ程入れ込んでいるのだ。

「へぇ?」

話の続きを促すと、一つ咳ばらいをして話し出す姫。語り出す時の癖だ。以前、気分を出す為だか何だか言っていた。

「何時も何時も、何時までも、幼い頃からの夢にしがみついてはいられない。だったら忘れてしまうのが一番。人はそれを"哀しい"と形容するのだとしてもです」
「幼い頃からの夢を実現ってのはよくあるがな」

「そんなのっ、ほんの一握りに満たない。だから殊更に取り上げられるのよ」

拗ねた様な声色に、取れてしまった敬語。顔の傷痕をなぞる指が擽ったかった。

「これは現実問題の話。自分はそんな人物へと成り得る存在なのかという話よ」

「それは大層な話だ。興味深いな」

そうでしょ? と気を取り直して姫は笑い、傷痕の次はオールバックに纏めた髪を弄りだした。もう姫しか見えなくなってしまった……いや、物理的な意味で。

「きっと、そうね。自らの限界を知ってしまった時、人は死にたくなるのだと思う」

「クハハ、自分は知ってしまったって口ぶりだな」

腰を掴み、膝に座らせる。さっきまでの景色が戻ってきた。一面にある水槽とその中を泳ぐバナナワニ。

「あら、そう聞こえる? 嫌だ、そんな思い上がった事なんて言わないわ」

「どうだかな」

「でも……たとえ、そうだとしても私は大丈夫ね」

「特別なんだって言いたいのか?」

傷痕、髪、その次は頬をお気に召したらしい。両手で挟まる。手はお膝、なんてのは姫には通用しない。

「ううん、違う。多分、何処にでも有り触れている平凡な事だもの」


そして、何かが唇へと触れた。




叶わなかった夢の代わりに私は貴方を見つけたのです

(それで結局、お前はおれにどうして欲しいんだ?)(ん、ずっとこうしてて)





初の鰐さんにして電波第二弾夢。
やっちまったよ、兄貴。

3月27日 灯亞



.



×End