01
"またですか"
そんな言葉が似合う午後だった。
「うわぁあわああー」
化け物――修兵さん曰く《虚》だったか、にまた追い掛けられている。この街は何だかおかしな事になっているのかも知れない。この間まではこんなもの見たこともなかったし、勿論襲われたこともなかった。なのに、こんな短時間でまた襲われることになるだなんて、本当人生何があるのか解らない。
「大人しく喰われろよ、お嬢ちゃーん」
「い、や、だ!」
更にヤバいことに、虚が喋っている。
会話が出来てるのだ。向こうに話が通じてるのか、は微妙な所だけど、少なくとも互いに発している言葉は分かる。まさか、私は知らず知らずの内に奴らの仲間になってしまったのでは? と不安になってしまうくらいに言葉が分かる。人間的になった分、ある意味怖くないけれど、喋っているからといってアイツの目的は前のヤツと一緒の様で……私は今、喰われるか喰われないかの瀬戸際にいた。
「ほらほら、疲れたんだろ。諦めたら楽になるぜーぇ?」
「はぁ、はぁ」
そろそろ足が重く感じる様になってきた。嫌な、耳障りな声が追い撃ちをかける。
遊ばれているのは重々承知。
だからと行って足を止める訳にもいかない。戦うなんて無謀過ぎる。勝てる訳がない。
「ただ追いかけるだけじゃつまんなくなってきたなぁ? おっと、……良いもんハッケーン」
ヒヤリと悪寒が走る。
遠くを伺うと――小さな子供がいた。サッカーボールを持った子供。勿論のこと、迫って来る虚は見えていない。
「危なっ……!」
瞬時に虚から伸ばされた触手の様なものを掴む。
「っ痛ぇ! 邪魔すんなよ!」
「あんたが食べたいのは私なんでしょ。狙うなら私を狙いなさいよ!」
威勢が良すぎるのも考えものだ。
幼少の頃からの短所が完全に足を引っ張り、確実な死因へと転じた。虚がニイィっと嗤う。あっ、私死んだな。と目を閉じた。
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