小説を詰めていく場所(Log) | ナノ


01



ルッチ/...シリアス?




「戦って、得るものなんて僅かなモノで――無くす方が多いの。もう慣れっこ」

姫は唄う様に、そう言った。その言葉は嘆く様でもなく、気にしている様でもない。ほんの独り言の様なもの。岩礁に打ち寄せる波音に掻き消されてしまいそうなそれだったが、一応おれの耳には届いた。

「今更、か? 無くしたものなど数えていたらキリがないだろう」

そもそも無くなるものなんて、最初から持たなければ良い。嫌ならば、力を得れば良いだけの話だ。残念ながら、おれ――(達とでも言うべきか?)のそれらは、あの忌ま忌ましい海賊達との戦いに敗れたことによって跡形もなく簡単に崩れ落ちてしまったけれど。何とも、転落することの早いことだ。それと伴い、少しの開放感に似たものを感じたのには不思議だったが。自分達が立っている岩礁の周りを飛んでいたハットリに指を差し出すと行儀良く彼は指先へと留まった。

「でもさ、失くしてもこの身体に突き刺さるものはあるのだよ、ルッチ。で、それは確実に痛みを訴えている」

トントン。
姫はリズミカルに自分の胸を叩いた。……今日は随分とセンチメンタルな奴だ。黙して、首を傾げる。昨日雨が降っていたからだろうか。昨日の雨音は何処かウォーターセブンで聞いていた音と似ていた気がしたし、センチな原因で思い当たるのはそれしかない。それとも、不意に思い出したのか……。
だとしたら、それは一週間前の夕食を急に意味もなく思い出す事と同じ様なものである。

「昔からお前は趣味が悪いんだ」

眉を潜めてそう言うと今度は姫が首を傾げた。とぼけている、な。皺が深くなる。大体、何時もそうだ。標的に恋をして、任務と共にその一切合切を消す。とても不毛で、報われない繰り返し。全くもって理解し難い。

「……否定はしないよ」

ニッコリと、姫は笑顔を浮かべていた。それは何時も見せるそれであって、些か戸惑う。

「そろそろ、おれに落ち着け」

ハハッ。長く長く吐き出した溜息は彼女の笑い声によって遮られた。
「それも大概趣味が悪いよ、ルッチ」

ポッポー。ハットリが小さく鳴き空を見上げた。そこにはカモメが一羽、二羽。ふと一羽だけ色の違うカモメへ目をとめると、すぐ近くで水柱が立った。姫がいきなり海へ飛び込んだのだ。

「じゃーん、羨ましい?」

服が、髪が肌にへばり付くのにも関わらず肩くらいまで海水に浸しながら見上げてくる姫。確かに、おれがそうしてしまえば直ぐさま力が抜けて溺死だろう。だからと言って、羨ましいとは思わないが。

「調度良い。頭でも冷やしておけ、バカヤロウ」

と、姫は軽く両手を上げて肩を竦めると、ハットリがその頭へ飛んで行き、留まった。黒に白のコントラストがよく映えている。

「……でもさ、実際あの人は、私の内の大部分を占めてはないよ? 愛着はあったと思うけど」

それに、元からあの人と私はベクトルの方向も何もかもが違った。あの人の中で私は"同僚"か"仲間"だとインプットされていただけだろうしね。と自嘲気味に姫は呟く。一体誰に向けて言っているのだろう、相手がおれでない事は確定している。おれを通しての誰か、もしくは……。

「その話は継続中だったのか、ハットリ聞いてやれ」

いきなり自分に話を振られるとは思っていなかったのだろう、ハットリは豆鉄砲をくらった様な声で鳴いた。

「ま、どんなに言葉を並べてみたって、私も失うことが嫌いなうちの一人って事だよ……だから辛いの」

――呟かれた姫の言葉がすんなりと胸に落ちてきたのを感じた。






で、電波……!?

12月3日 灯亞
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×End