小説を詰めていく場所(Log) | ナノ


(色違いの夢で泣く)


スパンダム?/暗風味





自分はあの人の一番にはきっとなれない。
そもそも、あの人にとっての一番の人だなんて存在するのだろうか。長年、彼を見てきたが、彼はそういう人をつくるタイプではない気がする。寧ろ……アイラブ自分タイプ、と言ってしまった方が存外しっくりとくる。

嗚呼何であんな人が好きだったんだろう。否、好きなんだろうか。

彼と私はただの同僚、特別な関係は望めないことなんて分かり切っていた。だからその時になって、傷付かない様にと身を引いてきたし、不用意に近付かない様にしていたのに。
しかし、理解することと実感することでは、やはり違うのだ。その事実をその時に痛感するなんて、とっても惨めな気分。
せめて、仲間だとは思ってもらえていたのだろうか。ほんの気休め程度の希望。しかしそれも彼の性格上、甚だ疑問。何だか溜息が出てきた。


「おい、何時まで落ち込んでんだよ」

本日つきっ放しの溜息が煩かったのか、スパンダムから苦情が飛んできた。

「別に落ち込んでなんかいませんよ、パンダ長官。……折れろ」

「うるさい、もう折れとるわ」

病室に備え付けられている簡易ベッド(折りたたみ式)の所謂、入院患者用ベッドに情けない格好で転がされている彼。たしか、ニコ・ロビンにボコボコにされたんだったか。
麦藁の一味を筆頭にその他大勢が仲間を取り戻すためだけに不夜島に乗り込んできた事件。あいつらのせいであの人達はいなくなってしまった。なんで私もその場に居なかったのか、今でも悔やまれる。何時までも落ち込んでいる原因だった。

「全治何ヶ月ですかね? それ。顔とか更に大惨事ですよ、目も当てれません」

更に、を強調してやる。長官の眉間の皺が深くなった。

「その割にはさっきからガン見だけどな」

怪我人には優しくしろよ、だなんて説教をする彼。身動きもろくに取れない状態のくせに口だけは良く動く。

窓をチラリと見るともう陽が沈みかけていた。そのことに多少なりとも違和感を覚えるのは不夜島での生活に慣れきっているからだろうか。私にとっての太陽は浮き沈みするものでなく、永遠にそこに有り続けるものだ。だからあれは偽物。「……ねぇ、長官」

「なんだよ」

先程からの態度が響いている長官はぶっきらぼうな返事を返してくれた。しかし、それは決して棘を含んだものでなく、妥協を含めたものに近い。

「長官の怪我は何時か治ります。でも私は心が大惨事です」

「そうか」

「私、本当にあの人のこと好きだったんです」

「ああ、知ってる」

「急に居なくなられるくらいなら……片想いのままでも良かったんです」

見ているだけで幸せ、だなんてしおらしいことを言う気はないけど。

「そうか」

淡々と相槌を打つ長官の顔は窓に向けられていた。包帯との相乗効果で表情が解りづらい。多分、難しい顔をしているんだろう。

「次に再開出来たとしても、あの人とは、きっと敵になります」

「そうだな」

否定はしない長官。
そんなの嫌だ。絶対に嫌だ。
理解することと実感することは違う。痛い程学んだことを再び体感なんて避けたい。それに敵になったところで私があの人に勝てる筈もない。私にあの人は殺せない。物理的にも心理的にも。そう考えてみると、私には既に死亡フラッグが立ってしまっている。




「……ってな訳で、私CP9止めてやりますから。さようならっ!」

「そうか……って、はぁ!?」

淡々と相槌、は話が話だけに打てなかったらしい。凄い勢いで振り向いた彼はその身を駆け巡る激痛に悶えていた。

「どうせこんな事になった以上、給料もろくに出ないでしょ? さようならー」

「ちょっと待て! 可笑しい、それは可笑しいから!!」


必死に叫ぶ長官を無視して、私は廊下を振り向きもせずに走った。


I cry in the dream of different coors.
色違いの夢で泣く……くらいなら、辞めてやんよ。





真面目な雰囲気をぶっ壊すの大好きです。
5月4日 灯亞.

お題:FromJUKE BOX.


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×End