小説を詰めていく場所(Log) | ナノ


01


修兵/中編/切→甘?



懐かしい声が私を呼んでいる。

悲しげに愛おしげに。儚く強く、切実に。しかし、その声へ返事を届ける術を私は持ち合わせていなかった。リピートされるそれを耳から入れて脳へと伝える。ただそれだけしか出来ない。否、耳にそれを入れる事さえも出来ないのだ。それは実在する声(もの)ではないから。

* * *

それは小さな異変。

時折、誰かの声が聞こえる様になったのだ。周りには聞こえない、私の頭の中でのみ認識されるそれ。最初は幻聴かと考えていたけれど、頻繁に繰り返される声は日に日に鮮明さを増していった。
声とは言ってみてもそれは私の名を呼ぶだけのものだから放って置いたけれど。さして問題もないし、何よりも医者に行く勇気はない。

幼い頃から私は幽霊なるものが見える。

それが原因ではないかと思ってはいるのだが……

「これは困った事に、なってるよね。どうも」

平凡な学校からの平凡な帰り道。
いきなり襲われた。相手はと言うと解らない。何やら珍妙な雄叫びを上げているソイツは、今までにお会いしたことのない出で立ちをしておられた。
まさかコイツを引き連れたまま帰宅、は出来る筈もなく。人間はすごーく驚くと一周回って冷静になれる生き物らしい、意外にタフだ、なんて驚きながらひたすらに走っていた。ビバ、陸上部!

「っ……、ハァ、っハァ」

たどり着いたのは人気のない廃墟だった。

一先ず瓦礫と瓦礫の間に身体を潜り込ませて一息つく。心臓がフル回転する感覚に胸を押さえて、今更ながら本格的に命の危機を感じだしてきた。

「冗談じゃないって」

最近は異変ばかりだ。頭を抱える。

とにかくこんな所で訳も解らないままに死ぬなんて嫌だ。死因が説明できない死に方なんて最悪。孫達に囲まれて安らかに、が憧れなのに、今の状況はどう考えても程遠い。そんな思いを一蹴するかの様に"化け物"が目の前に迫る。

「もう嫌、誰か助けてっ……!」

――刹那、一つの黒が視界の端で揺れた。
「伏せろ!」



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