01
(欲しいのは君の一言)
ロイ/甘
奴が浮気した。
……のは何時ものことだけど、今回ばかりは酷かった。気が付いたら、持ち帰った文献と報告書を奴の顔面にたたき付けて、今に至る。
「はぁ……」
随分とド田舎に来てしまった様子。
見回す限り田畑が広がる駅のホームには誰もいない。歩くこと一時間、辛うじてあった一軒の民宿に泊まることにした。
荷物を畳みに下ろし、景色を眺める。遠くに見えるあの白い物達は羊か山羊か。
「お客さん、電話ですよ」
目を凝らしていると、訛混じりのおばさんに呼ばれた。全くもって嫌な予感しかしない。
「やぁ、姫」
受話器ごしにいたのは案の定、今は憎きロイ・マスタングだった。
「…………」
「っ! 待て、切るな!」
空気で察したのか、慌てる彼。その後ろで、電話はお静かにと言う厳しい声も聞こえたから、まだ彼は司令部で勤務中なのだろう。
「何の用ですか。報告書に不備でも? チャラタング大佐」
「いやいや、そろそろ君の機嫌を直してもらおうと思ってね」
一体どの口が言ってんだか。
「私の目の前で他の女とイチャついていた奴の吐く台詞とは思えませんね」
「だから、悪かったと言っている」
さながら、濡れたマッチの様にしょぼくれたマスタング。……焔の錬金術師なだけに。
「第一、機嫌も何も、私は研究の為に此処へ来ただけですから」
「そんな何もない僻地にかい?」
なんと小賢しい。
「…………」
「だから、待ちたまえ! 切るな!」
暫しの無言を味わう。ゴホン、と咳ばらいが一つ聞こえた。
「私が悪かった。もう決してしないから帰って来てくれ。随分と長い間君の顔を見ていないんだ、堪えられない」
満点には程遠いけれど。
「……それは上司命令ですか?」
「まさか、お願いだよ」
あからさまに弱り切っているなと分かるロイの声に免じて、今日だけは許してあげることにした。
事件発生→慌てる→乗ったであろう駅を調べて、沿線場にある停車駅を調べる→愛の力で連絡をとってみた。
電話で会話、ちょっとツボです。
9月20日 灯亞.:)お題提供
JUKE BOX.様
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