結論は出たかい
ロイ/甘?
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姫がイーストシティに戻ってきた、と報告を受けたのは数日前のことだった。
「姫は一体どうしたんだ」
「それは大佐が良く知っておられるかと」
ロイが独り言の様に呟けば、返ってきたのはリザの手厳しい言葉であった。
決して表立っては出さないけれど、姫を随分と気に入っている彼女は、姫に中々会えないことに苛々しているのだろう。その原因が自分の上司だとあっては尚更の様であった。
「確かにそうだな」
悪びれた様子もないロイは片手でペンを回した。間違いなく自分の、あの行動のせいであると自覚している彼は思い出すだけで胸に広がる甘さに口元を吊り上げるている。リザとは対照的な表情。
俗に言う、世間の女性達を夢中にさせるそれよりも自然な、心底楽しくて仕方がないとでも言うかの様な笑みを浮かべていた。
彼にとってもはや机の上の書類なんて問題ではない。
「しかし……そろそろ報告書を出して貰わないと困りますね」
そんな上司を見兼ねてか、あくまでも穏やかに――しかし伝えたい事は明確に伝えるリザ。
「何、律儀な彼女のことだ。心配せずとも、どうにかして持って来てくれるよ」
凄い努力が必要になるだろうが、と心の中で付け加えたロイは上機嫌にクスリと笑った。
* * *
「うぅ……」
所変わって、話題の人物である姫は意外と近くにいた。角を曲がれば直ぐにロイのいる場所で所謂、目と鼻の先。しかし、彼女は廊下の壁にもたれ掛かり書類を握り締めてその場から一歩も動けずにいた。体調が悪いのかと心配しそうな状態だ。顔も赤い。
「何してんだ、姫?」
「ハッ、ハボックさん!?」
急に現れた彼に姫は大いに驚いた。
「大佐が随分と首長くして待ってたぞ。早く行ってやった方がいいんじゃないか?」
「……知ってる癖に」
恨めしげな様子でジットリとハボックを見上げる姫。
「そーだな。応援してるさ」
ハボックはそんな姫の頭に手を乗せると歯を見せて笑った。
きっと上手くいく。
彼女の相手を思い返すと複雑な気がしないこともないのだが、あの上司は姫をきっと幸せにしてくれる――と、その一点は曇りない。
「本当、に?」
あとは姫が踏み出すだけ。
「ああ。素直になれば大丈夫だ」
「うん……わかった」
俺って恋のキューピッドってやつか? と心の中で思いながら、タバコを燻らせるハボック。頑張れよーと、手を振りながら言ってくれる彼に背中を押されて、姫は走った。
近くにいただけあって、走った距離は大したことはない。止まってしまえば、また尻込みしそうだと思った姫は直ぐに扉を開ける。そこには、まるで来ることを予想していたかの様にゆったりと椅子に座っているロイがいた。
「やぁ、姫」
「たっ、大佐……えーっと」
口を開いてしまえば、あとは至極簡単なことだった。
「お、お返事遅くなりました。わっ、私も大佐のこと好きですっ」
出てきた言葉をそのまま伝えてしまえばいい。故に、シンプル。
「構わないさ。ずっと私の事を考えていてくれたんだろう? 嬉しいよ」
赤くなる姫とは対照的に、涼やかに笑うロイ。
――そうして姫は優しい青に包まれた。
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あれ? ハボ夢チックになってしまった。
8月9日 灯亞.
:)お題提供
JUKE BOX.様
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×End