辛いなら、忘れて下さい
ドレーク/切恋
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「ドレーク少将っ!」
前が見えるのかと思う程に積み上げられた書類を抱えてやって来た姫。
優秀な部下だ。
書類のせいでやはり見えていないのか、彼女はフラフラしながらそれを机に置いた。
何時も通りで微笑ましい光景。口元が緩むのを感じながら眺める。暫く眺めていると姫は足を止めた。
「あの……」
何かを言いたそうに口を開きかけた姫。不思議に思い、首を傾げる。
「ん、どうした?」
「……や、やっぱり、何でもないです。失礼しましたっ」
ハッとしたように姫は、慌てて出て行ってしまった。
* * *
――数日後、その何もかもが全て崩れ落ちる。
数人の海兵の脱走を告げる警報。
この音は嫌いだ。それを鳴らしている張本人がそう思うのも可笑しいと思うけれど。
あくまでも、こっそりと。
そう言う予定だったのに何処からだろうか、この計画は何処からか露顕してしまった様だ。
風が強く、マントを揺らす。
基地の上に掲げられたカモメも一層とはためいていた。何時だったろうか、海軍が掲げている正義を見失ったのは。刀を腰に提げる。もう海軍だった自分は居ないのだ。此処に在るのは海賊である自分。掲げているのは赤旗であって、カモメではない。見回したそこらにあるのは過去のもの達だ。海へ向かおうと、数名の仲間達に合図を送った。
「待って下さいっ」
刹那、よく知った声が聞こえた。
刀を、震えた手で握っていた姫がそこに居たのだ。一番会いたくなかった者に会ってしまった。
振り向かずに背は向けたままにしておく、よって姫の表情は分からない。
「何処に行くんですか……ドレーク少将」
声が震えていた。
「海賊として、海へ出るんだ」
表情が分からなくて良かった。
一度、顔を見てしまえば――振り返れば二度と進めない気がした。未練は此処に置いて行く、飲み込まれてしまう前に。帽子を深く被り直す。
「知ってましたよ。何となく」
「連れていく事は出来ない」
「そうです、か」
悲しげな声に胸が痛む。
「……すまない」
「いえ、はっきりと聞けて良かったです。諦めがつきました」
意外な応えに、思わず振り返ってしまう。
そこには泣きそうな顔だったが、こちらをしっかりと見ている姫がいた。
不意に何も言えなくなる。
明らかにおれは戸惑っていたのだ。どんな言葉もここにはそぐわない気がした。
「狡いと思われるかも知れないが……おれは姫のこと本当に」
やっとの事で発した言葉には無意識のうちに未練が滲んでいた。胸の内で苦笑する。
何が未練は此処に置いて行く、だ。
手放す事すら出来ないでいるのに。姫が近寄ってくる。
「分かってます、……ドレークさん」
最後まで言わせたくないのか姫はおれの唇に指を当てた。仕方なしに、それ以上言葉にせず自分の内にへと収める。
「だから、ね」
姫が悲しげに顔を歪めて、耳にそっと唇を寄せた。
『 』
「それは、できない相談だな」
走り去る姫を見送ると、コートを翻して背を向けた。
【辛いなら、忘れて下さい】
確かな痛みと共にお前がいる
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……暗いわっ!
昔に書いて保管しっぱなしだった作品です。ドレークさん好きなんだけどな、キャラがイマイチ掴めなーず。
4月18日 灯亞
×End