小説を詰めていく場所(Log) | ナノ


Valentineとは?


ルッチ/バレンタイン
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スパンダムに呼び出された後の、自室への帰り道、姫に呼び止められた。何だ、と振り向くと唐突に話を振られる。

「2月14日、バレンタインデー。好きな人や日頃お世話になっている人にチョコレートを贈る日。ねぇ、ルッチは知ってる?」

姫は自分から呼び止めたくせにおれの顔を見ようとはしなかった。若干俯き加減で腕を後ろに組んでいる。

「ああ、カリファから教えてもらった」

「ええっ、姐さんに!? まさか、既にチョコ貰ったの?」

何でもないような言葉に姫は過敏に反応した。驚いた表情を浮かべて身を乗り出す。それでも両手は頑なに後ろにやっている。その挙動不審な行動に何となく事の顛末が読めてしまった。おれも馬鹿ではない。

「いや、貰っていないが」

「……そう」

自然に口元が上がってしまう。
姫は冷静になろうとしているのか、おれから一歩下がった。

「ゴホンッ、で……元々はバレンタインって聖ウァレンティヌスさんに由来する記念日で、世界各地で色んな感じで祝うんだって」

「そうか」

よくこんなに雑学がポンポンと出てくるものだ。

「きっかけ知りたい? 知りたいよね?」

おれの返事を待たずして話を進めようとした姫に、ハットリがポウ、と鳴いた。その声を聞いた姫は弾けた様に笑顔になりおれに、と言うよりハットリに話しだした。
因みに姫はまだおれの顔を見ない。目が合いそう、そんなギリギリな所で直ぐに反らしてしまう。

「あのね――最初にこのイベントが生まれた地域は、未婚の男女が別々に暮らしているの。で、年に一回、とある祭りがある、と。この祭りがポイント。その前日に、娘たちは紙に名前を書いた札を桶の中に入れることになっているんだ。で、当日、男たちは桶から札を1枚ひく。くじ引きってことね。そして、ひいた男と札の名の娘は、祭りの間パートナーとして一緒にいることと定められているの。その多くのパートナーたちはそのまま恋に落ち、そして結婚した。それが始まりっていう説もあるらしいわ。……どう? 流石のカリファ姐さんでも、これは知らなかったんじゃない?」
何時もとは打って変わっての饒舌さ。素面の姫にしては珍しい。ふと、視線を横にやると、ハットリは話を真剣に聞いていた。暇な時、姫はよくハットリに色々な話を聞かせているから話をしやすいのだろう。少しはこちらを見てくれてもいいと思うんだが……。

「ああ。まあ、な」

相槌を打つ必要は果してあるのか分からないが、取り敢えず適当に打っておいた。

「世間ではバレンタインデーだ、バレンタインデーだと騒ぐけれど。これにチョコレート会社が便乗して、今にいたるのでしたー」

「そうか」

「チョコには、本命と義理の2種類が存在するの。最近では友チョコとか逆チョコとか増殖傾向にあるけどね」

「……姫。とても勉強になった、分かったから、そろそろ後ろに隠している物をくれないか?」

「えっ!? 一体何時から……」

「会った時からだ、バカヤロウ」





2月15日 灯亞.






×End