小説を詰めていく場所(Log) | ナノ


01


スモーカー/切甘?
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"姫が抜け出した"

恋人が入院している病院。ほぼ毎日通っている、そこから連絡が入り、スモーカーの額に嫌な汗が伝う。

「っ……バカヤローが、無茶しやがって」

姫の容体は日を追う毎に悪くなっていて、医者も、もう長くないだろうと半ば諦めかけている程の筈。
その事は本人も既に知っている。それなのに……それだから、なのかも知れない。

バサリ。
正義と刺繍されたジャケットを急いで羽織ると頭の中に浮かんだ場所へと向かう。

――絶対では無い。
しかし、きっとアイツはあの場所にいると何か確信していた。

「……歌?」

「っスス、スモーカー大佐!?」

オレと姫が出逢った場所。

「見て、大佐。手が届きそう!」

「転ぶなよ」

アイツの好きな場所に。


* * *

暗い浜辺にうっすらと浮かんだ白い背中。
姫はブラウスにカーディガンを羽織っているだけの恰好だった。

直ぐさま駆け寄りジャケットをかける。

彼女は突然のことに驚いて振り向いたがおれだと気付いた瞬間、おれの名前を呼んで微笑んだ。

「っハァ……、安静にしてないと知らねぇぞ」

「大丈夫、今日はね、身体が何だかとても軽いの」

ねぇ、連れ戻す? 心配そうに顔を曇らす姫。

「……無理すんなよ、今日だけだ」

「やったぁ! スモーカー大好き」

笑いながら腕にへばり付いてきた。

頭をグシャッと撫でるとガキの様に笑う姫。おれとしたことが、甘いな。

ヒナの奴に丸くなったわね、ヒナ意外。とか言われたのを思い出した。
何を、と思っていたが、あながち間違ってはいないらしい。

「どうしたの? 顰めっ面しちゃって」

「……いや、何でもねぇ」

隣に居る姫が震えていないのを確認して
夜空を見上げる。

銀の砂を撒き散らした様な、あの頃と変わらないそれに手を伸ばしていた彼女の気持ちが分かった様な気がした。


「スモーカー……私が居なくなったら、2晩くらいは泣いてね?」

それでさ、笑ってよ。

何の脈絡もなく紡ぎ出された言葉に僅かに目を見開く。

知らず知らずの間に寄っていた眉間の皺を人差し指で押して、両頬を引っ張りながら姫はそう言った。

「……あぁ、分かったよ」

まるで、遺言を言い残すかの様な姫を堪らず引き寄せる。

ブニー。

「ぷっ、スモーカー変な顔」

「…………失礼な奴だ」

仕返しに、姫の頬へと手を伸ばした。




(それは、最後の最期の約束)


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スモーカーさんで切ないのを目指してみました。

あの人、切ないのとか似合う気が……。

タイトル結構お気に入り^^

5月22日 灯亞



×End