小説を詰めていく場所(Log) | ナノ


寂しくなんてないから


キッド/切甘
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明日村を出ていく。

唐突にそう言った真っ赤な彼は、本当に今日この日に旅立ってしまう様です。

「何時帰ってくるの?」

「おれが海賊王になった時だ」

そう自信満々に言い放ったキッドの眼には迷いなんて無くて――そんなもの今まで見たことないけど、彼の決意の硬さを知った。
視線を逸らすと、海岸には何人かの見送りが居て手を振っているのが見える。色とりどりの花々も一緒に揺れていた。

キッドの赤には霞んでしまうけれど。

「海に花、なんて投げないからね」

「ハッ、寂しいか?」

口元を歪めて笑うキッド。昔っからこの笑い方だなんて、ある意味海賊向きだと思う。

「……それは、まあ、それなりに」

「心配すんな、ちゃんと帰ってくっから」

頭を撫でる手はぶっきらぼうなのに、声色は優しいだなんて。文句の一つも言えなくなってしまう。あまり無いけれど。

「キッドは約束を守る奴だ。そうだろう?」

横に居るキラーもそう言って笑った。

確かに。
守れない約束をキッドは決してしない。それなのに、約束してくれた。きっと意地でも守るんだろうね。

大人しく頷く。

ガラガラ。
金属が擦れる音が響いた。船はもう錨を上げている。嗚呼、もうすぐ出港の時間だ。
二人の背中を見送らないと。一歩下がる。

「ほらよ」

不意にキッドから何かを渡された。手に握られていたのはキッドのゴーグルだった。物に執着する事の少ない、彼の愛用品。

「それをおれだとでも思っとけ」


――下ろされた赤が誇らしげに揺れていた。




(何時か胸を張って帰ってくるその日まで)(さようなら)





×End