小説を詰めていく場所(Log) | ナノ


Word


キッド/甘?
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「……っ馬鹿野郎が」

盛大に舌打ちしたキッドは、怒りを顕わに、手に持っていたボトルを壁に投げ付けた。私の頬を掠めたそれは派手な音を立てて形を失う。

自分のベッドに踏ん反り返っている彼とは対称的に、床に正座している私。黙り込んだキッドに私は口を開けずにいた。

怒りの理由は分かっている。

先程の戦闘の事だ。

大方、敵を倒し終えた時に一人しぶとい奴がキッドを狙ってナイフを振り下ろした。そして、それに気付いた私が咄嗟に間へ飛び込んだのだった。
本当に馬鹿な事をしたと思っている。何て馬鹿なんだ。キッドがあんな雑魚にやられる人じゃないことなんて身に沁みているというのに。

……それでも、だとしても、だ。

身体が動いてしまったものは仕方ないじゃないか。込み上げて来る何かから逃れる様に拳を握ると、包帯が巻かれた部分が余計に痛んで逆効果だった。


「……で、なんか言うことはねぇのかよ」

不意に、重い沈黙を裂いたのはキッド。

「ない」

それに無駄に反発して答えてしまったのが私だった。

本日何度目かの溜息をつかれてしまい、気が重くなる。背が縮むのではないかと思う程に肩が重い。

耐え切れなくなり、私は
甲板へと飛び出した。


* * *

風に煽られても列を崩さない渡り鳥達。波間ではカモメが遊んでいて、穏やかな海だった。水面に反射した光が何時もより眩しく感じる。

「おい」

背後から声がした。
振り向かないでも、その主は分かっているので再び海を眺める。キラーだ。

「説教しに来たの?」

「まあな。……あいつの気持ちも汲んでやったらどうだ」

淡々と紡ぎ出されるそれは、何時もと変わらない。

「分かってるよ」

何だか分かってなさそうだ、耳に入ってきた自分の声に気分が沈んだ。
もうちょっと素直に言い返せれないのだろうか。こんな時、自分の性格が心底嫌になる。
もっとも、キラーはもう慣れっこだろうけど。

「……あいつは落ち込んでいた」

思いがけない言葉にキラーの方を向く。今、の事だろうか? 首を傾げた。

「姫が怪我した時だ、とても気にしていた。口には出さないものの、あいつの事だ、自分がもっと早く反応していたら……とでも思っていたんだろう」

「そんなの、言ってくれればいいのに」

一層、込み上げてくる罪悪感。涙腺が緩みそうになり、堪える為に発した言葉は酷く幼稚なものだった。

「言葉足らずなのはお互い様、だろう?」

今度はキラーが困った風に首を傾げる。確かに、私とキッドは似た者同士だ。
うん、確かに。……とは言ってもいきなり謝りに行くというのも無理な話であって。
どうしようか。


「キッドの方が早かったみたいだな」

「……?」

悩んでうずくまったが、顔を上げる。

視線の先にはキッドがいた。

眉間に皺を寄せて、舌打ちを何度もしている。一見すると先程よりも、機嫌が悪そうに見えるが、纏う雰囲気は全く違っていたことに気付く。

「おい、姫。……悪か」

「ごめんなさいっ」

キッドを遮る様に出したそれ。今度は素直に言えて、安堵する。余程驚いているのか目を見開くキッド。
若干、失礼だ。

「分かってんならいい」


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久々更新はキッド船長で。
スランプ脱出作戦成功?

キッドさん、最近ハマッているのです。キラーの口調はサッパリ掴めない……。
イメージは苦労人なオカン!

11月9日 灯亞
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