01
『姫』
彼と修兵さんが重なった時、一気に理解した。
何時も何時も悲しげに、何度も何度も私の名を呼んでいたのは"修兵さん"だったのだ、と。
――ずっと不思議に思っていた。
届かない声を発し続けることなどすぐに止める筈なのに、彼はずっと私を呼んでいた。
それは次第に胸へと染み込んでいき、今は優しいその声に何だか泣きたくなっていた。
「姫。ごめんな」
「なんっで、……修兵、さんが謝るの?」
修兵さんが私の頬を包み込む瞬間、実際に泣いてしまっていた。涙は次から次へと彼の指を伝う。
「あの日、俺は適当な理由をつけて、お前から逃げようとした」
「うん」
目を伏せていて、弱々しい。それなのに見惚れしてしまう。次の言葉を待つ頃には既に涙は止まっていた。
「辛かった、あいつと似てたから」
修兵さんが正面を向いた時、穏やかに悲しみが映った瞳に後悔も入り混じっていたのが見て取れた。修兵さんの過去、何回聞いても不思議な感じがするけれど。
「…………」
黙って頷く。
「やっぱ、あんな話するべきじゃなかった。お前に重いもん背負わしたな」
「…………」
黙って首を振る。
やっぱり、優しい人だと思った。人の為に傷付くことの出来る、優しい人。
「だから、やっぱり別れるべきだ。俺はお前に惹かれてるが、それが確かに"お前に"かは分からない」
「ん、……ん?」
今度は黙ってはいられなかった。
告白と別れ話が一度に来てしまった、不意な展開に唖然とする。
別れる理由は生まれ変わる前の、以前の私にあると言う。……おかしい、おかしい。私が以前に誰であろうと、私は私だ。
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