01
「お前はこの世界で幸せなんだろ? 俺が干渉することじゃない」
そうだね。
貴方は何度も私を助けてくれたけど、今思い出せば、何処か辛そうだった。
そもそも私と貴方は相容れない存在なのに。貴方と出逢わなければ今、私はこんなに苦しい思いをしなくて済んだ。
関わりが深ければ深い程に、その傷痕は深くなっていく。今の内に修正しとかないと、瘡蓋にもなりやしない。
だから、修兵さんと離れたのは正解。
でも、そんなの……喜べる訳ないじゃない。
――あの時きっと、二人ともが哀しい眼をしていたんだ。
* * *
何事も無かったかの様に平和な日々がただ過ぎていく。会ったら言いたい事が沢山あるのに、修兵さんとは会えない。
「とっくに、尸魂界に帰ったのかな……」
ため息が出る。
「はーっけん!」
それを吹き飛ばす高い声。それと共に長い何かが身体へと巻き付いた。
「何、これ……っ」
それは今まで出くわした虚の中で一番人間に近い虚。
しかし、桁違いの威圧感、圧倒的な恐怖を感じる。身体の震えが止まらず足は完全にすくんでしまっていて、まともな働きは期待出来そうになかった。
「あら? 今すぐには殺さないわ。安心しなさいな」
首に絡み付いた常人よりも遥かに長い腕に力が入り、器官が絞められる。酸素が一気に遮断されて息が出来ない。視界が狭くなり、段々と暗くなっていく。何なんだ、この虚は。言葉と行動の矛盾窮まりない。頬を撫でられる感触に身の毛がよだつ。
「あんたを襲えばもーっと強い奴が出てくるんでしょ。ずっと守っていてもらってたもんね。格好いい男の人にさァ。見てたんだよ? 私」
エコーがかった無邪気な少女の声色。
この場にそぐわないそれが伝えたのは、最悪な事だった。
「つまり、ちょーっと我慢するだけでもっと美味しいご馳走が自然と手に入るって寸法!」
この場合、口に入るって言った方が正しいかもねェ。キャッキャと嬉しそうに笑う虚に一気に血の気が引く。
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