掴んだその手 | ナノ



掴んだその手2

嬉しくて嬉しくて、すぐに応えようと陣を展開させようとして……

「水の、これは僕が行くから」
「え、え……あっ、」

リアトル様が素早く陣を展開させ行ってしまった。
力ある者から呼ばれたとき、その波動は呼ばれた精霊と他の精霊にも分かるから、リアトル様が来たのは驚かなかった。
だけど、応じようとした精霊じゃない精霊が行ってしまうなんて、今までなかった事態に僕はその時、呆気に取られたままで……。

ふと、これでよかったのかもしれないと思っていた。
僕を呼んでくれた人には申し訳ないけど、力ない僕なんかが行くよりリアトル様が行ったほうが、その人も助かるはずだから……と。

水の精霊は総じて皆、美しい青の髪色をしているのに、僕は白っぽい色。
容姿だって、綺麗で可愛い精霊達が多い中でパッとしない地味で平凡な奴。いないわけじゃないけど、圧倒的に少ない中の一人。
あれだけの力を持つ人には、相応しいはずがないから……。
へこみつつ最初の召喚のことを思い出していると、

「……あ!」

リィィンと美しい鈴の音がして、僕の周りに緩やかな魔方陣が広がる。
リアトル様が代わりに行ったあと、何度も僕を呼んでくれるこの人。だけど僕は一度も応えたことはない。波動を感じ、中位・低位精霊が争うように陣を展開させて行ってしまうから。……高位精霊様が来ないことが不思議だけど。
精霊達は、すぐに帰ってきているようで。僕にはそんな早く仕事を終えられないから、やっぱり行くべきではないんだと思う。だから、この呼び掛けにも、応えられない。

「来た!」

リアトル様が突如現れて、愛らしい顔を朱に染めて陣を展開させた。
今回はまた、リアトル様が勝ったんだ……。
悲しいけれど、僕はそれに対して何も言えない。リアトル様は僕をちらりと見て笑い、その姿を消した。




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