掴んだその手7
「―――……の下、我は契約を願い、御身の名を求む」
ふと我に返ると言葉は終わっていて、動揺を隠すように佇まいを直す。
逸らされることのない紫の瞳を見つめて、僕も続く。
「我が名はフィン。精霊王の配下であり水に属す者。汝の願いに応え、力を貸そう」
内心焦りながら返答の言葉を思い出していたなんて、誰にも言えない……。
頭に叩き込んでいたときから思っていたけど、この言い方は酷く偉ぶっていて、言いにくい。
一先ずそれは後回しにして、浮かぶ魔法陣にアルバス様と一緒に触れる。
こうすることで契約は無事成立した。
「フィン、フィン。漸くあなたの名前を知ることができました」
「ごめんなさい、アルバス様。何度も呼んでくれたのに……」
嬉しそうに僕の名前を呼ぶアルバス様は、思ったより背が高く思い切り見上げなければならない。
だから失礼ながら袖を引き屈んでもらうと、アルバス様は更に笑みを深めて首を振った。
「いいんですよ。こうして応えてくれたからには、もう気にすることはありません。それより、私のことはランウェルと呼んでくださいね」
「ありがとうございます、ランウェル様!」
なんて優しいお人なんだろう!拒否し続けた僕を怒るどころか、笑って許してくれるなんて……!
改めてすごい人が選んでくれたんだと、喜びを噛み締めた。
「儀式が終わったばかりで悪いが、アルバス」
「はい、陛下」
「伯爵の氷を、解いてやってくれないか」
ぎゅっと抱き締めてくれたランウェル様の腕の中で、陛下の気まずげな声を聞いて周りにいる人たちのことを思い出した。
慌てて離れようとしても抱き締める力を弱めてくれず、困ったままランウェル様を見上げた。
「私のフィンを傷つけ、貶したのです。しかも私より先に契約しようとしたんですよ?相応の報いだと思いますが」
その表情は見えないけど、声色で怒っていることが分かる。
僕のことで怒ってくれているんだ……やっぱりランウェル様は優しい。
(121225)
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