鷹の眼 | ナノ



26

「間宮は」
「離れで待機しています」

カチャンとドアを閉めて、表情を棘のような鋭さに変えた鷹峰に、部屋の前で待っていた芝は背筋をピンと伸ばした。
待っている間、微かに洩れ聞こえてきた宏樹の泣き声。やきもきしながらドアを見つめていたら、鷹峰の鬼のような顔が出てきて、自分の顔が引き攣ったのを感じた。
コンマ0.01秒くらい前にあった宏樹に向けた笑顔は、一瞬にして完全に消え去っている。
その笑顔を自分にも向けてくれたら……なんて寒いどころか生きていられるかも分からない冗談は言わないが、その変わり様の早さに驚くばかりだ。

「やはりどういうことかと、騒いでいます」
「だからあそこは"クズ"森なんだ」

呟く声は、なんの温度もなく。
本家と言っても、母屋の玄関にすら入れてもらえなかった無能。言われたことを理解もせず、のうのうと鷹峰の名前を使って生きてきた人間が本当の恐怖を知るのはこれからだ。
聞くに堪えない醜い声が洩れてくる部屋の前で立ち止まり、ノックもせずにドアを開ける。鷹峰が室内に入ったのを確認して、静かにドアを閉めた。

「冬嗣くん、これは一体どういうことかねっ!?」

間宮が立ち上がり頭を下げる中、楠森は挨拶もせずに問い質しに掛かる。
礼儀のなさと当主となった鷹峰の名を呼ぶという行為に、間宮と芝は眼光鋭く睨んだ。

「貴方こそどういうつもりですか。此処は鷹峰本家であり、当主の前です。立場を弁えなさい」
「なっ、そんな……!」
「まさか、知らなかったなんて……言いませんよね?」

あり得ませんしね。と続けられた言葉に鼻白んだ楠森は、ぐっと息を詰めて小さく非礼を詫びた。
何を今更と再び口を開こうとした間宮を、鷹峰は手を振ることで止め、楠森の向かいにどっしりと座った。

「風紀にいる分家の者から聞いただろう。――楠森は除名した。今後一切"鷹峰"の名を騙るな、と」
「それは一体どういうことなのですっ?我が楠森家は代々鷹峰のために、」
「あの学園を任せたのは確かにうちだが、それが間違いだったのは以前から分かっていた。利益に損はなかったから放置していたが、こうも立て続けに問題を起こすのなら別だ。無能は必要ない」




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