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喉が引き攣りながらも、なんとか泣き止んだ頃には冬嗣さんの綺麗にアイロンが掛けられていたシャツがぐしゃぐしゃになってしまっていて、正気に返って反射的に土下座しそうになった。
「ご、ごめんなさい……」
「気にするな。それより、これからは俺の前では何も我慢をするなよ。我儘もだ。甘えたいときは素直に甘えろ、腹が立ったら怒れ、悲しいときは俺に隠さずぶちまけろ」
いいな。……冬嗣さんはそう言って腫れた瞼を親指で撫でて、じっと俺と目を合わせた。
逸らすことを許さないとでも言うように、髪と同じ色の目が語る。
「いきなりは難しいかもしれないが、徐々に慣れていけばいい。手始めに冬嗣と呼び捨てで呼んでみろ」
「ええっ!」
ころっと雰囲気が一掃されて、突然の要求に声が上擦る。
無理無理!と頭を振れば、がしりと両手で頬を包まれ目で凄まれてしまう。
「無理です!冬嗣さんは俺の恩人で、大事な人で……!だからそんなっ…」
さっきのドクターの気持ちがとってもよく分かった気がする。
これは本当に無理だ。呼べるわけがない。今までとは違った意味でじわりと涙が浮かんできて、ぶれる視界の中冬嗣さんを見つめる。
「……まぁ、仕方ない。名前はそのままでいい、だが他のことは必ず守るんだ。いいな?」
「わ、分かりましたっ」
一瞬カッと目が開かれた気がしたけど、瞬きしたあとにはなんともなくて。
気のせいだと思い、呼び捨てしなきゃいけないならそっちのがマシと思い必死に頷く。
「もう少し寝ていろ。夕飯には起こしに来る」
「はい。……あの、冬嗣さん」
ゆっくりとベッドに寝かされ、さらりと前髪をいじる冬嗣さんを呼ぶ。
優しい声でどうしたと続きを促されて、ふわりと笑う。
「おやすみなさい……」
「、ああ……おやすみ」
額に熱い感触があって、不思議に思う間もなく冬嗣さんの微笑みに目を奪われたけど。
とろとろと重力に逆らわず目を閉じて、すぐにあたたかな夢へダイブした。
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