23
自分の体温で暖かい布団に、サラサラと触り心地のいいシーツ。
ふわりと優しい香りが鼻腔をくすぐって、なんだかとても気持ちが良い。
ゆっくりと目を開けて、どうして自分は寝ているのだろうとうつらうつら考える。
「…………ぁ、」
再び襲う睡魔に身を任せようとして、食堂での出来事を思い出した。
そうだ。おじ……冬嗣さんが学園に来て、俺は安心して眠ってしまって……
そこまで考えて、ドアがノックされているのに気づいた。
「あ、はいっ……はい!」
「失礼します」
慌てて返事をすると、優しく微笑みながら眼鏡を掛けた男性が入ってきた。
その目に信者達のような侮蔑がなく、無意識に肩の力を抜く。
「具合はどうですか?」
「え?あ、大丈夫です」
ベッド脇にあった椅子に座ったその人は、持っていた鞄から湿布や薬瓶を出すとそれをサイドテーブルに置く。それを呆然と見ていると、何故かすみませんと謝られた。
「申し訳ないのですが、僕のことは……そうですね、ドクターとでも呼んでください」
「はぁ……」
「少し面倒な男がいましてね。本当は名前で呼んでほしいんですが、許してください」
「いえ!そんなっ……じゃあドクターと呼ばせてもらいますね」
そこまで高くない身長と柔らかい雰囲気に安心して、久しぶりに自然と笑う。
敬語は止めてくださいと言われたから、ドクターも。と言うと、必死にそれも勘弁してくださいと言われる。
ちょっと残念だけど、それも何か理由があるのかもしれない。年上の人に敬語を使わないのは躊躇われるけど、深々と頭を下げられてしまっては断るのも悪い気がして、渋々頷いた。
「顔の火傷は幸い大したことなかったので二、三日後には痛みもなくなると思います。ただ身体のほうはかなり酷いので、絶対に無理に動いたりはしないように」
分かりましたか?と有無を言わせない気迫で圧され、反射的に首を振る。
薬の処方と、あとで湿布を貼るように言うとドクターは冬嗣さんを呼んでくると席を立った。
まともな意識がある中で、遂に対面するのだ。緊張するなというほうが無理というもの。
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