鷹の眼 | ナノ



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「波田があれを欲しがっている。ちょうど良い機会だからな、躾はあいつに任す」
「波田さん、が……」

鷹峰の専属運転手をしている波田という男は、その優しそうな外見から弱く見られがちだが、その間逆にいる男だ。
頭のキレ、身体能力の高さ、判断力。それらを合わせ持つ波田だからこそ、被害が多い外での護衛兼運転手が出来ているのだが。

「危機察知に、弾除けが六人。それだけいれば、腐敗した奴らを消すのに十分だ」

合計七人。万が一宏樹に危険があった場合の、身代わりの人数。
いざ当然とばかりに言われると、やはりこの男は鬼だと思い知らされる。
そんな男に命を預けた間宮や他の部下のことも、きっと宏樹に関することであれば道端に転がる石程度になるのだと思い、苦笑を零す。

「俺達もいること、忘れないでくださいね」

少なくとも間宮は、学園にいる間に坂下宏樹という人物を好きになった。
それは決して恋愛感情ではない、どちらかというと弟を見ているような気持ち。
だから、弾除けくらいならいつでもなる。鷹峰にそう意味を込めて告げれば、スゥ…と目を眇めた。

「宏樹に触れたら殺すぞ」
「……分かってますよ」

訂正。鬼は恋をして、少し変わったらしい。
呆れたまま校門の傍に止まっていた車のドアを開ける。
宏樹を抱いたまま器用に乗り込んだのを見て、バンと音を立ててドアを閉めた。

「お疲れ様です」
「波田さんこそ、お疲れ様です。……躾、頼みますね」

運転席に乗り込もうとしている波田に含みを持って言えば、一瞬目を見開いたあと獲物を狩るような目つきをして笑った。
そして「任せてください」と微笑むと、ゆっくりとした動作で軽く頭を下げて今度こそ運転席に乗り込んだ。

「…………怖い人に見つかったな」

どこで見つけられたのか分からないが、流石に書記に同情してしまった。……多少だが。
車が見えなくなったのを確かめて、学園へと戻る。
元理事長は分家の者に通達されたくらいじゃ、きっと納得しないだろうから本家に連れて行くように言われているし、まだやることは残ってる。
長い一日になりそうだと、小さくため息をついた。
 



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