鷹の眼 | ナノ



14

施設の院長には、施設の庭にいた宏樹を見たのが初めてだと言ったが実際は違う。
あとから調べて分かったことだが、初めて宏樹と会ったとき、あれは宏樹の両親が亡くなり誰が宏樹を引き取るかで揉めていたときだった。
当時12歳のまだ幼いと言っていい少年に、自分が邪魔者扱いされていることなんて耐えられるはずがない。
運転手の波田が使いをしに行っているのを車中で待つ間、偶然車が止まっていた場所が宏樹がいた離れの傍だった。
植木があるものの障子が閉まっていない部屋は丸見えで、何気なしに見ていると仏壇があることに気づく。それを見て苦しそうに、悔しそうに「連れて行って」と泣いている宏樹に目を奪われたのを今でも鮮明に覚えている。

感情がないのではなどと言われていた俺が、あの一瞬で強烈で様々な感情を持て余し叫びそうになったのだから――いい笑いの種だ。
 
 
芝からの連絡に苛立ちを隠さないまま学園へと入る。
やはり当初、宏樹の存在を否定し財産だけ毟り取り施設に放り込もうとする人間達を黙らせ、連れて帰れば良かった。あの時すぐに波田が戻ってきてらしくなく悩んでいなかったら、二年もの間宏樹を探さなくて済んだのだから。

俺が誰だかよく分かっている守衛は、ほっとした表情を一瞬した後頭を下げて門を開けた。
 
「お待ちしておりました」
 
その横を通るとき、小さくそう言った守衛にちらりと視線をやる。
頭を上げた守衛はその目に怒りを見せたが、すぐに消し去った。
それは手を出すなと言った俺へなのか、あの屑たちへの怒りなのか。
何も言わずに通り過ぎ、屑の一人である理事長――既にその席も、楠森家もない――には、この学園で風紀委員長を勤めている本家に従順な分家の者が行っているので、そのまま宏樹がいる食堂へ向かう。

不自然な静寂の中、歪な声と暴行の音。
この中で行われていることは、既に芝からの連絡と道中の監視カメラの映像を見て知っているからこそ、腸が煮えくり返って仕様がない。
 
部下の一人が扉を開ける。
次々と生徒がこちらを見てくるのを尻目に、懐にしまっておいた銃を天井に放つ。
そのまま屑に当ててやろうかと思ったが、少しでも宏樹が屑の血に濡れてしまうのは許せない。




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