鷹の眼 | ナノ



13

「うわぁ……」
 
思わず声が出てしまったのは、しょうがないと思う。
坂下くんの傍にいたウェイターが男に頭を下げたのを見て首を傾げたけど、それもすぐに吹っ飛んでしまった。
だって、男が坂下くんの名前を呼んで膝をつき、笑ったんだ。
拳銃を撃っても、転校生を蹴り飛ばしても、役員たちに睨まれても一切表情を変えなかった男が、だ。
美形の笑顔ほど破壊力が高いものはない。隣の友人も「なるほど」なんて言って納得してる。
 
「宏樹、大丈夫だ。もう安心していい」
 
何故か何度も男に謝る坂下くんに、甘い美声で男が微笑む。
それが見えた近くにいた僕や、親衛隊や他の生徒の頬が赤く染まる。
気絶するように眠った坂下くんを子供を抱くようにそっと抱き上げた男は、未だに喚いている転校生へと振り返った。

「な、なんで宏樹なんか抱っこしてんだよ!宏樹なんかより俺を抱っこしろよ!!」
 
たぶん、唖然としたのは流石に転校生信者たちも一緒だった。
台詞の幼稚さといい、意味が分からない言い様に誰かの笑いを噛み締める音が聞こえた。
 
「宏樹なんて地味なやつより、俺のほうが可愛だろ!だから俺にしろよ!」
 
苛立つように分かりきっていたもじゃもじゃの鬘を取って、眼鏡を外した転校生は確かに可愛かった。
だけど言わせてもらえば僕の友人のほうが可愛いし、親衛隊の子たちのほうが可愛い。
それに可愛かったとしても、破綻している性格と言動で意味を成していない。

「可愛い、ね……」
「ああ!宏樹なんて暗くて、あんま喋んないし泣き虫だし!俺のほうが…っ」
「人の大切なものを傷つけたお前を、可愛がれと?」
 
男の背中から見えないはずの怒気が、ゆらりと見えた気がした。
本当に坂下くんを大切に思っていることがよく分かる…。

ずっと心配だった。でも、なにもできなかった。
なにもできないっていうのは、僕自身が非難されてもしょうがないこと。
坂下くんに救いがきた今、たとえ許されなくても謝りたい。それが僕自身のエゴだとしても。


---side out---


(121102)




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